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自覚と嫉妬

「全くしないですよ」 あれからしつこく挨拶をして、しつこく声を掛けて、質問をするのにことごとく無言で返されている。 「和臣もいい加減子どもだよね~」 スルリと肩から手を離して、「ところで休日の校舎で何してたの? 覗き?」と笑った。 俺が廊下にいて、覗いてしまったことを分かっているような言い方に、「いえ、違いますから。叔父の後藤先生に会いに来ていただけです」と言い訳をした。 もし、覗いたことが分かっていたとしても、偶然だと強調した。 「ああ、後藤先生ね。叔父さんなんだ。似てないね」 「後藤先生は母の腹違いの弟なので血の繋がりは無いんです」  歳も近いし、叔父さんというよりはお兄さんに近い関係だ。幼いころから可愛がってくれてもいるし、ここに通うように誘ってくれたのも叔父さんだ。 赤茶色の髪が夕日に照らされて燃えるように赤く染まる。色の白さが極まって息を呑むほどに妖艶に見える。 情事の途中だったのだろうと安易に想像できるけど、この人はそれを抜きにしても色気が漂っている。 「さっきの人はいいんですか?」 追いかけては来ないけど、あんなふうに置き去りにしても良いんだろうか。自分がその要因になっていることにも後ろ髪を引かれる。 「いいの。いいの。どうせ寮に帰れば一緒なんだから」 この人と同室ってことはさっきの人はA寮の園田寮長だ。 叔父さんが桃香先輩と人気は変わらないと言ってたけど、なるほどワイルドなイケメンだった。そんな人と人気のない休日の特別教室にいたってことは、そういう仲なのだろうか。

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