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奪われる想い
俺の心配をしてくれていたのなら俺の名前を呼んでくれてもいいのに。その上、俺は睨まれて置いてきぼりだし……。
「どうしたの? 響君」
「桃香先輩、俺の心配してたの?」
気になって確認してみる。本当に心配してくれていたなら、梓先輩よりも、俺に声をかけるんじゃないだろうか。
やっぱり、従兄弟同士で仲がいいから、俺よりも梓先輩を優先したんだろう。
「心配してたよ。夕飯の時間になっても帰ってこないから」
「それ、桃香先輩から聞いた?」
あの声で。
「ううん。相良先輩から」
そっか。それでも喋らないのか。
俺が心配をかけてもしゃべらないのなら、やっぱり仲良くしようという気はないんだろう。
梓先輩が言った、『満更でもない』は本当に寮の部屋を開けられないから仕方がないってことなのだろう。
「何で?」
「いや、喋ったのかなぁと思って」
食堂からは夕飯のカレーの匂いが漂ってきて食欲を刺激する。深みにハマって落ち込みそうになる気持ちをカレーへの食欲に変換する。
メインはカレーだが、トッピングが選べるようになっている。週末はカレーになることが多いそうだ。
俺はカツカレーにチーズをトッピングして春と共に窓際の席に座った。その横には相良先輩が待っていて、カレーにエビフライを乗せていた。
「響君、後藤先生のところからの帰りに迷って、梓先輩に送ってもらったそうですよ」
春は説明しながら相良先輩の隣に座った。
「そうか。何も無ければよかった」
「何も無いですよ。俺、男ですよ」
俺はその向かいに座る。
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