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奪われる想い
「編入生ってことで注目されているからな。1人でウロウロするなよ」
「気をつけます」
春のトレーにはカレーにチーズが乗せられているだけだった。
「で、桃香はどこ行ったんだ?」
「梓先輩と出て行きましたよ」
相良先輩は「ならいいか」と頷いて食べ始めた。
部屋に帰ってシャワーを浴びてソファーに座っていると桃香先輩は帰ってきた。
「桃香先輩っ。あの、心配してもらったみたいで。すいません」
立ち上がって振り返ると桃香先輩は、「ああ」と返事をした。
返事を……した。
「あ、あの、今帰って来たんですよね。晩ご飯は?食べましたか?」
急に返事をされて動揺した。桃香先輩は視線を泳がせてから、口を開きかけて首を横に振った。
何で? 何で今日は返事をするんだ?
梓先輩と会うまではしゃべらなかったのに。
「何も食べてないんですか?」
今帰ってきたのなら食堂はすでに締まっている。ふと思い出して「今日、叔父さんにもらったんですけど、食べますか?」俺は立ち上がって添付の小型冷蔵庫からもらってきたプリンを2個差し出した。
少し驚いた顔をしたあと、受け取った。
返事をしてくれたことで俺はテンションが上がって、「スプーン取ってきます」と桃香先輩に座るように促してスプーンを渡した。
「俺、甘いの苦手なんで遠慮なく食べていいですよ。二つともどうぞ」
桃香先輩は一つを手に取って、もう一つも自分の方へと引き寄せた。
桃香先輩はフィルムを剥がすと黙々と食べ始めた。
「美味い?」
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