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奪回

テストを控えている状態で問題を起こせば、減点対象になりかねない。 目つきの鋭い生徒。たぶんこいつがリーダーなのだろう。俺に近づくと俺の手からカバンを奪って、「付いて来い」と歩き出した。 前後から挟むようにして、入り組んだ校舎の中を昇り降りして連れて来られたのは「科学実験室」だった。普段滅多に使うことの無い教室で入るのは初めてだった。 並びの教室も特別室ばかりで放課後に使う人間もほとんどいないのだろう人影も無かった。 「お前、明日からのテスト白紙で出せよ」 「はぁ?」 急に言われた馬鹿げたことに俺は驚いて聞き返した。 「お前がテストの点数を下げてくれれば梓先輩は帰って来ないからな」 4人に囲まれて俺は教室の奥まで詰め寄られた。後ろは科学実験に使う薬品や実験道具が入ったガラス戸の棚がある。 「自分が白紙で出せばいいじゃないか」 テストの点数を下げることが目的なら俺に強制せずに、自分たちで白紙回答を出せばいい。 テストに拘るところを見ると、きっと同じB寮なのだろう。 「俺たちがそんなことをしたら、近づけなくなるだろうが。お前は同じ部屋だからどんなに悪い点とっても部屋は変わらなくて済むだろう」 「何で俺があんた達に協力しなくちゃならないんだ。断る」 桃香先輩に近づくために自分たちは成績を落としたくは無い。近づくためには梓先輩は邪魔な存在なのだろう。 ……俺と同じ感情……。 自分の黒い考えをまざまざと見せ付けられているようでイライラは更に募った。 「協力なんて頼んでねぇよ。強制だっての」

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