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奪回
「顔は目立つからやめとけよ」
何度も何度も蹴り上げられる。
痛みに涙が滲んで、床に顔をこすり付ける。4人から暴行に、どこから殴られているのかも、蹴られているのかも分からず、抵抗も皆無で意識は朦朧としてくる。
「もういいだろ」
暴行が止まる。
「白紙回答と交換だからな」
薄れる意識、かすむ視界。
俺は暴行が止んだことに安堵して……4人が立ち去る足音を聞いていた。
「……がっ……比嘉っ……」
「んっ」
止めて。もう止めてくれ……。
振り上げた手はまだ縛られたままで、口も縛られたまま声が出せない。恐怖に目を閉じたまま抵抗する。
「桃香、先にほどいてやれ」
違う声が離れたところから聞こえた。
「比嘉っ、大丈夫か?」
その声にゆっくりと目を開けた。視界を覆うほどに近い距離とその声に抵抗は収まり、安堵した。
冷え切った身体に当るところは熱いくらいだ。
抱き締めるように俺を起こし、顔を覗き込んでいる。
「大丈夫か?」
ハスキーで低く聞き取りにくい声。
その声が俺の耳を擽る。
近い距離でじっと俺を見つめる。その表情は険しく、心配に揺れている。
「桃香、まずは落ち着け」
バサリと俺の体の上に何かが掛けられた。そして頬に当る鋭く冷たいもの。
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