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奪回
「悪かった。早く見つけられなくて」
「いえ……」
どのくらいの時間俺がここに放置されていたのかは分からないけど、窓の外はすっかり暗くなっている。
「犯人は捕まえた。デジカメのデーターも消した」
桃香先輩の声はさっきのハスキーな声とは違っていて、よく通る声をしていた。
口を押えるように覆ってから、「今、相良が毛布と着替えを持ってくる」と言った。
「桃香先輩……ふ、『普通』に、喋っていいですよ?」
桃香先輩は眉間に皺を寄せて不機嫌そうに顔を歪めて俺の横に立ち上がった。近くにいた温もりが離れて、寒さにブルリと震えた。
「お前に……何が分かるんだ」
ハスキーな声。
両脇で握り締めた拳。
「何も、何も分からないですよ。先輩、話してくれないですし……でも、俺、先輩の声、好きです」
『ガラッ』
教室の扉が開いた。
『好きです』は聞こえたのだろう、相良先輩は俺の方を見てから横に立つ桃香先輩を見つめた。手には茶色い毛布を抱えていて、一緒に出て行った春の姿は無かった。
「桃香。話は部屋に帰ってからでいいだろう。比嘉が風邪を引く」
バサリと広げられた毛布が俺の全身を覆う。俺の横に立っていた桃香先輩は踵をかえした。
「桃香っ」
そのまま教室を出て行こうとする桃香先輩を相良先輩が腕を掴んで止めた。
「俺はあいつらの処分をしに行って来るから、お前は比嘉を連れて寮に帰れ。風呂に入れて手当てもしてやれ」
桃香先輩はため息を付くと振り返って、「帰るぞ」と俺に言った。
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