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裏切られ続ける想い
皆が望んでいる声を梓先輩が独り占めしているのだから。
「喋らないからみんな、梓先輩が必要だって、思うわけで、ちゃんと、桃香先輩が喋ってさえいれば俺は……襲われなかったのに……」
声はだんだん小さくなる。
俯いて膝を握った。
「響ちゃん」
隣いる梓先輩が僕を抱き締めた。
「和臣。いい加減自分で話せ。こんな可愛い子傷つけて。ねぇ響ちゃん」
ギュウギュウと抱き締める。
「痛いっ……痛い」
傷口を押さえ込まれて抗議の声を上げた。
「梓」
桃香先輩は抱き着いている梓先輩を引き剥がすと、「副はこれ」と俺の頭をポンポンと叩いた。
周りは黙っている。
っていうか、桃香先輩が喋ったことに驚いて声が出ない。
桃香先輩は立ち上がると不機嫌に机を蹴って部屋を出て行ってしまった。
「…………和臣の馬鹿」
僕の耳元で梓先輩は小さく呟いた。それは回りには聞こえていなかった。
ただ、俺は、その真意を『その声じゃない』と受け取っていた。
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