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焦がれる自覚

桃香先輩に触れられたことで、あの声で名前を呼ばれたことで、自覚してしまった想い。もっと、呼ばれたいと求めてしまう。 避けられていることは辛い。 避けられると追いかけたくなるけど、桃香先輩の気持ちは全く分からない。いら立って机を蹴ったのは、俺がその声を求めたからだ。 人前でしゃべることを強要したから。 これだけ避けられれば嫌われたのだろうと気が付く。桃香先輩があれだけしゃべらない原因は春に教えてもらっただけじゃないだろう。深い傷があるに違いない。 梓先輩に聞いてみようか……。 桃香先輩じゃ話してくれそうにない。 勝ち負けとかじゃない。もっと、桃香先輩を知りたいからだ。避けられっぱなしじゃ気まずい。副寮長が決まるまでは俺はこのまま先輩と同室だし、嫌われたままでは気まずい。 「響君。明日からの連休はどうするの?」 授業が終わって、同じクラスの春に寮に戻りながら明日からの4連休のことを聞いた。祝日が重なり、振替休日もあって学校は4日間連休になる。 寮に残る生徒も多いが、大半は実家に帰ったり、旅行に出かけたりして留守になる。ここ数日、寮長会は休みの間の寮生の管理などで忙しくなっていた。 「寮にいるよ。帰るところも無いから」 両親は海外に行ったきりだから家に帰っても誰もいない。わざわざ帰って家事を自分でするよりは、寮でのんびりしていた方がいい。叔父さんに遊びに来るように誘われたけど一人で寮にいるほうが気楽だからと断った。 「春。桃香先輩って、寮出るのかな?」  問題は、桃香先輩だ。  こんな気まずい状態で2人きりになるのは気進まない。桃香先輩が残って、春がいないなら春の部屋を数日借りられるように頼んでみようか。

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