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焦がれる自覚
「和臣の声……変に思わない?」
あのハスキーな声に俺は魅力を感じている。身体がゾクゾクするほどの。
「声って、ハスキーな声の方ですよね。俺は好きですけど」
「和臣の声、分かるんだ?」
梓先輩は少し驚いたように俺の顔を覗き込んだ。
「分かるっていうか、お父さんに似せた声の後、更に掠れたりするし、嫌々出しているんだろうなって、分かりますから」
ハスキーな声だって、嫌々喋っている感じはするけど、父親似の声ほどではない。
「響ちゃんってすごいね~」
感心したように言われて、「何もすごくないですよ」と身を引いた。
「父親似の声って事を知っているなら、原因を知ってるんじゃないの?」
「父親似の声を聞きたがられるからって程度にしか」
春に簡単に説明された程度にしか知らない。幼馴染の梓先輩なら、詳しく知っているだろう。
「うん。まぁ、そうなんだけどね」
梓先輩は俺に向けていた顔を自分の足元に向けて、「和臣の声があんなになってしまったのは父親似の声のせいなんだよ」と小さな声で言った。
中学生に上がった頃、桃香先輩の父親は人気アニメの声優に抜擢された。中学生に上がったばかりの同級生たちは誰もが羨ましがった。桃香先輩も求められるがままにその声に似せて話してみせた。
普段の声もその声でしゃべり続けた。
だけど、変声期を迎える時期の喉に、それは悪影響を及ぼした。
父親の人気が出れば出るほど、期待は大きくなる。
「残酷だよね」
うつむいた梓先輩の顔は暗い。
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