66 / 121
焦がれる自覚
「和臣にも無理はしなくていいって言ったんだよ」
変声を終える頃には、本来の声は潰れて低く掠れてしまった。期待の大きい同級生は幼すぎた。
その幼さは、桃香先輩を深く、深く傷つけた。
「手のひらを返すようにね。それでも、和臣は頑張ったんだよ」
年が上る毎に陰険になる周りからの中傷を避けるように、徐々に口を閉じる。
成績優秀で見目も麗しく、声は人気俳優と同じなら、否応なしに目立つ存在だ。
だから、喋るのをやめてしまった。
それなら誰も期待しないから。
本当の声を知られることも無いから。
「僕も、『もう喋らなくていい』って、言ってしまったから……」
責任は自分にもあると梓先輩は自分を責めた。だから、桃香先輩の側でずっと支えてきた。庇ってきた。しゃべらない事を容認していた。
桃香先輩を守ってきた。
だけど、これから先ずっとしゃべらないわけにはいかない。
何かきっかけがあればいいんだ。
これが自分の本当の声だと、認めて支えてくれる存在が。
「和臣の声が分かる響ちゃんならさ。和臣、大丈夫だと思うよ」
「俺じゃ、どうかな」
避けられている今のままじゃどうしていいか分からない。
「大丈夫。叔父が、僕達の叔父だけど、『恋をすれば変わる』って言ってた」
「恋?」
それは誰のことだろうか。
俺の恋だろうか。
確かに感情は揺さぶられて、以前よりも臆病になっている。相手の動き、行動ですぐに落ち込んでしまうほどに。
「和臣も変わらなくちゃだめなんだよ」
ともだちにシェアしよう!