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焦がれる自覚

「和臣にも無理はしなくていいって言ったんだよ」  変声を終える頃には、本来の声は潰れて低く掠れてしまった。期待の大きい同級生は幼すぎた。  その幼さは、桃香先輩を深く、深く傷つけた。 「手のひらを返すようにね。それでも、和臣は頑張ったんだよ」  年が上る毎に陰険になる周りからの中傷を避けるように、徐々に口を閉じる。  成績優秀で見目も麗しく、声は人気俳優と同じなら、否応なしに目立つ存在だ。  だから、喋るのをやめてしまった。  それなら誰も期待しないから。  本当の声を知られることも無いから。 「僕も、『もう喋らなくていい』って、言ってしまったから……」  責任は自分にもあると梓先輩は自分を責めた。だから、桃香先輩の側でずっと支えてきた。庇ってきた。しゃべらない事を容認していた。  桃香先輩を守ってきた。  だけど、これから先ずっとしゃべらないわけにはいかない。  何かきっかけがあればいいんだ。  これが自分の本当の声だと、認めて支えてくれる存在が。 「和臣の声が分かる響ちゃんならさ。和臣、大丈夫だと思うよ」 「俺じゃ、どうかな」  避けられている今のままじゃどうしていいか分からない。 「大丈夫。叔父が、僕達の叔父だけど、『恋をすれば変わる』って言ってた」 「恋?」  それは誰のことだろうか。  俺の恋だろうか。  確かに感情は揺さぶられて、以前よりも臆病になっている。相手の動き、行動ですぐに落ち込んでしまうほどに。 「和臣も変わらなくちゃだめなんだよ」

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