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焦がれる自覚

立ち上がってテーブルに片手を着くと、身を乗り出して、俺に近づき、俺の唇に触れていた手を取った。 「な、何ですか?」 引っ込めようとするけど、桃香先輩はその手に口付けをした。 触れるだけの。 触れたまま離さず、そこから俺を見つめる。 睨むように。 「何?」 聞き返しても返事が無い。 顔にかかる髪の間から見つめる瞳は俺を捕らえる。 声を発さなくても俺を捕らえている。 「……桃……先輩…」 グッと腕を引かれた。2人の間にあった机は腕を引くと同時に桃香先輩が足で押しのけていた。ソファーの上のファイルが落ちて、中の紙が床の上にばら撒かれる。 隔たりになるものはなく、俺は腕を引かれるがまま桃香先輩の腕の中に引き込まれた。 引き込まれたまま桃香先輩が身をかわしたから俺は桃香先輩が座っていたところに押し倒されてしまった。 その動きの早さに声も出せずに俺はされるがまま桃香先輩を見上げていた。 「なにするんですか?」 突然の行動に驚いてソファーに押し倒されたまま見上げている。 桃香先輩は眉間に皺を寄せて睨み付ける。 睨まれる理由が分からない。 俺を押さえ込んでいた手を片方離すと、俺の顔までその手を持ってきて、唇を指先で撫でた。 そう、さっき俺がしていたように、指先で思い返していたかのように……。 それは明らかに俺の行動を見ていたってことで……俺が何を想っていたかを知っている……。 かっと頬に熱が上がるのを感じて抗った。

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