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焦がれる自覚

今度はよく通る声。 二通りの声を自在に操る。 だけど、その本人はどっちも嫌いだという。 「みんな『声』ばかりだ」 ため息をつくと喉に片手を当てて、俺を見上げると座るように促した。 俺はちょっと考えてから桃香先輩のすぐ横に座った。 「親父に似たこの声のせいで俺の声は枯れたんだ」 首を傾げた。 「俺が声変わりする少し前、親父はアニメの声だけじゃなくてナレーションや吹き替えもして、声を聞かない日は無かった。その声に俺の声はよく似ていて……やってくれって、真似してくれって散々言われたんだ」 その人気者の息子が近くにいて似ているとなれば、やってもらいたくなるだろう。 人気アニメの声だったりしたらなおさら。 「真似することは別に嫌じゃなかった。親父が努力していることも知っていたし。だけど、俺は声変わりした。親父と似た声は変わらず出せたけど、それが無理になって本当の声を潰してしまった」 だから、普通の声は枯れているのだ。 「それに、周りの落胆する顔を……離れていく友だちを見ているのは辛かった」 全寮制の学校で親しかった友人が離れていくのは辛いことだったんだろう。幼いころから共に育った友達が離れていくのは、辛いことだっただろう。それは安易に想像できた。 「だから、喋らなくなったんですか?」 「偽って知られた時の落胆を嫌と言うほど味わってきたからな」 「だけど、だけど俺。初めて聞いた先輩の声は『普通の声』でしたよ」 「……そうか?」 「初めてここに来た日に下駄箱で俺に、『編入生か?』って」

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