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『待ち時間』
桃香先輩は立ち上がると部屋のカーテンを閉めた。
いきなりの行動に驚いて、いや、何でカーテンを閉めるんだろうとじっとその行動を追った。
いや、夜だし、締めるんだけど……。
「点呼」
桃香先輩はそう言い残して部屋を……出て行ってしまった。
時間を確認すると8時前。
点呼の時間ではあるんだけど、急……。
いや、今のままだとさ……俺、食われるところだったよね?
キョロキョロと周りを見回して1人ため息をついた。
何あの『すきになってもいい』って。
俺のこと? 声のこと?
嫌いなやつを襲うほど飢えてないって……ことは、俺……嫌われては無いってことで、飢えてるってこと……だよね。
さっき手の甲に触れた唇は熱かった。
その唇が触れた自分の唇に俺は触れて、その熱を知っていて……。
それを桃香先輩は気がついていて、わざとあんな行動を取ったってことは……俺、誘われたってこと……。
そんな相手にさ、逃げるなとかって……抱けって言ってるみたいじゃん。
先輩は行こうとしていたのに、俺、逃げるなって縋ったっていうか……。
両手で顔を覆ってその指の隙間から今先輩が出て行ったばかりの部屋のドアを見つめた。
明日からは休みだ。
寮生の半分は帰省していて、いまさら外出届を出すこともできないから寮は出て行け無い。
机は移動されたままで、ソファーも暴れたせいでずれている。
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