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『待ち時間』
「行くんですか?」
振り返って先輩に尋ねると「必要なものを買いに」と低い掠れ声で答えた。
その声、反則だって。
到着した狭いエレベーターに乗り込んで背中を壁に付けて俺は俯いてしまった。先輩は乗り込むと俺に背中を向けて、一階に着くと俺の前を歩き出した。
ここへ来て初めて外に出た俺は周りを見回した。コンビニの場所は来るときにバスから見えたから知ってはいるけど、外を歩くのは初めてだ。
11月に入って日は短くなってすでに外は真っ暗闇。外灯の明りとまばらにある民家の明かりが道を照らしている。
その道の少し先を桃香先輩が歩いていく。
俺と出会ってそのまま出てきたせいか、先輩は薄い長T姿だ。薄い長Tは体にフィットして背筋や肩の動きがよく分かって制服より逞しく見える。
普段鍛えているようには見えないけど、俺を軽々抱えられるほど鍛えれていることに驚いて、今見ている背中に見惚れてしまう。首の空いたTシャツから首、うなじが見えて薄暗い中で白く浮き上がって見えた。
この身体にさっき押し倒されたのか。
抵抗しても動かないのはこの筋力の差なんだろうな。
お菓子ばっかり食べているようだけど、ぜい肉ってなさそうだもんな。
考えている間にコンビニに着いてしまった。
コンビニの大きなガラス窓の中には見知った顔もある。明日から休みだし、点呼も終わって買い物に出てきた寮生が数人見えた。
ガラス張りだから向こうからもよく見えたのだろう、桃香先輩が近づくとそそくさとレジに向かって行ったのが見えた。
自動ドアを開けて入るときには、「こんばんは」なんて声を掛けながらどっと出て行ってしまった。
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