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『声を聞かせて』
携帯を指先で操作すると尻ポケットに押し込んで無造作に目の前の箱を手に取ると籠に入れて、俺の手を引いてレジに持って行った。
俺は引き摺られるままレジに連れて行かれて、そのまま店を後にした。
手を繋いだまま。
先輩の手にはさっき買った食べ物の入った袋と小さな袋が握られている。レジの店員は丁寧にも食品と箱を別の袋に分けてくれた。
ガサガサと進むたびに鳴る袋の音。それを見つめて俺は先輩に引き摺られて今来た道を寮に向かって歩いている。
バクバクと鳴り続ける胸と熱くなる耳。顔。
好きって……俺のことか。
それを買うってことはやっぱりそういうことで……。
同意って、同じ気持ちかって確認で……。
何でそんなことメールで聞いたりするんだよ。
こそっと、こそっと、知れないように用意するもんだろそれって。
そういえばさっき出かける時に『必要なものを買いに』って……そういうことだったのか……。
でも、なんであんなところで、買う直前に『好き』何ていうんだよ。
もっと……時と場所とかあるだろう。
しかも今の流れから、きっと梓先輩に促されたから『好き』って言ったんだろうことは想像ができる。
だんだん腹が立ってきて、「ちょっと待って」と手を引いて止まった。
手は繋いだまま先輩も止まって俺を振り返った。
「梓、先輩が、同意かって、俺に聞いたよ」
桃香先輩は俺を指差してその後に自分を指差した。
何が言いたいのか分からなくて首を傾げる。
傾げた俺に近づいて、繋いだままの手を更に引かれた。
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