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『声を聞かせて』
学生証でドアの鍵を開けて中に入り、靴を脱ぐときにようやく、桃香先輩は手を離して振り返った。
2人きりの空間。
俺は真っ赤になって俯いて自分の唇を摘んでいた。
靴はまだ履いたまま。先に靴を脱いだ桃香先輩がすぐ横にビニール袋を置いて、俺を引っ張る。
「ま、まだ靴脱いでない」
慌てて靴を脱いで中に入る。先に中に入って行った桃香先輩は自分の部屋に小さい方のビニール袋を投げて、食料の入った方の袋をキッチンに置くとリビングの入口に立ったままの俺のところまで戻ってきた。
『ドンッ』
肩を押さえ込まれて後ろのドアにぶつかる。
驚いて抵抗しようとあげた両手を桃香先輩の肩に置いた。
途端に感じる自分の指とは違う柔らかい感触。
何度か繰り返し触れて、熱い物がぬるりと擽った。
ギュッと閉じた瞳。
吸い付かれる音がして、羞恥に益々熱くなる顔。
息も熱くなる。フッと開いてしまった唇の隙間から、熱い舌が入り込んで歯列を擽って、舌を絡め取られた。
吸い付くような音が響いて、水音がそれに混じって、熱い息の音が響く。
「……ふぅ……んっ」
強く舌を吸われて、痺れる甘さに声が色づく。
肩を押えていた手がそこから離れて、着ていたジャンパーのファスナーを下げる音が聞こえた。
「……んっ……と、…せん……」
じゅちゅっと音を立てて唇が離れて、俺の肩に桃香先輩が額を付けた。
全身で扉に押さえ込まれて、肩に置いていた手はいつの間にか縋るようにそのシャツを握り込んでいた。
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