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『声を聞かせて』

擦れ合ったそこから桃香先輩の熱も感じ取れている。  フッと離れる重みに慌ててしがみついた。  自分の行動に慌てて手を離した。  「やめる?」  俺の両脇に両手をついて見下ろしている。  だけど絡められた両足と、合わさったままの互いの昂ぶり、触れているとこから伝わる体温。俺を見下ろす瞳が……欲しいと訴えている。  熱を帯びた瞳に俺だけが映っていて、言葉よりも強く俺に訴えている。  「………」  熱に浮かされて、言葉が出ない。緊張に喉が渇く。  さっきは、『いまから』なんて軽く言ったくせに、部屋に入った途端にあんな口付けをしたくせに、いざとなったら俺に答えを求める。  好きだって言わせたくせに。  俺に好きって言ったくせに。  熱く昂ぶらせるだけ、昂ぶらせて、最後の一言を俺に委ねる。  「響」  ハスキーなその声が俺の名前を呼んだ。促すように。  さっきリビングで話した時とは違う、更に低くて余裕が無くて、苦しそうで、艶を含んだその声で。  「………だ……い……よ」  言葉にするのは恥ずかしくて、ギュッと目を閉じて桃香先輩を引き寄せた。顔を見て言うのは恥ずかしくて、その耳に唇を近づけて、抱いていいと早口で告げた。 

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