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『変わらない情景』
「……あっちで話してくれませんかね。俺、着替えるし……」
思わず小声になってしまった。
何で睨まれるのか、なんで機嫌が悪いのか、怒るべきは俺のほうなのに……。
裸だし、ほって置かれてるし、蚊帳の外だし、睨まれるし……俺って何?
グッと唇を噛み締めて、引き上げた布団の端を握り締めた。
桃香先輩は梓先輩を押し退けるようにすると、布団の上を四つん這いで俺に近づいて来た。
「な、何?」
近づいて、そのまま俺の顔の横に顔を寄せて、耳元で、「休み明けの挨拶考えとけよ」と言った。
「何それ? 挨拶って何?」
俺が聞くと桃香先輩は眉間に皺を寄せて、梓先輩を振り返る。
「一臣。伝わってないよ。副寮長を響君にするんだって。それを休み明けの全校集会で発表するから、挨拶を考えるようにって。分かった?」
梓先輩は簡単に説明してくれたけど、急にそんなことを言われて納得できるはずか無くて、俺は力いっぱい横に首を振った。
「挨拶なんてできない」
「難しい事は無いよ。一臣がやってくれるし。集会の時の挨拶も一臣が書いてくれた原稿通りに読めばいいから。僕はずっとそうだったし。ね?」
「そういう問題じゃなくて、俺、まだ来たばっかりだし。行事とか全く分かんないし……わぁあっ、ちょっと、桃香先輩っ」
四つん這いのまま俺に近づいて、その格好で肩に顎を乗せたまま後ろに倒れさせられた。枕があるから完全に倒れた分けじゃないけど、重みがかかって起き上がれない。
「ちょっと……俺、腰痛いいって……」
言ってからここに梓先輩がいたのを思い出して羞恥に暴れるが、桃香先輩はびくともしない。俺の顔の横に顔を埋めたままだ。
「お前が認めないなら、梓を戻すからな」
低い掠れた声でボソボソと喋る。耳に口をつけて話すから、それはくすぐったさと共に俺の背中を這い上がった。
腰の痛みがあるように、身体はその甘い背筋を這い上がる快感も知っていて、俺は身じろいだ。
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