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『苦渋』
普通は恋人同士になってすぐとかって、もっと一緒にいたいとか、もっとイチャイチャしたいとか、もっと……。
それが桃香先輩から全く感じられないし、初めてやった朝だって、俺のこと放置だったし……。
女々しいと分かってはいても、面白くは無い。
グッと唇を噛み締めて耐えていた。
だけど、泊まると言われて部屋を出てきてしまった。
部屋には梓先輩がいるし、帰りたくない。
「春……今日、どっか泊まれるところない?」
「うーん。許可出すの桃香先輩だよ?」
普段なら簡単な書類を書くか、点呼後にこっそり部屋に行くなりできるけど、今日は休みの最終日。寮長である桃香先輩の許可を取るか、部屋に帰ってから点呼後に出るしかないのだ。
部屋に帰りたくないのに……。
「帰りたくない」
唸るように呟いてギュッと膝を抱き締めた。
「桃香先輩に怒られるよ?」
それは俺が帰らないからではなくて、点呼にいないからだと思う。それに匿っている春も怒られることになる。
「今日の点呼は寮長会全員でするから、その後会議になるんだけど、点呼が終わったら戻ってきていいから、一度帰ってきたら?」
「……分かった」
仕方なくズルズルとベッドから降りて春と一緒に部屋を出た。
「春。時間遅れるぞ」
すぐに声を掛けたのは隣の部屋の相良先輩。
「今行きます。じゃあ、響君また後でね。戻らない時は連絡しなくていいからね」
「ありがとう」
返事をして重い気持ちにため息をついて部屋に向かった。
桃香先輩、出かけた後ならいいのに……。ああ、でも、部屋にはきっと梓先輩がいる。
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