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『苦渋』

部屋の前に立って鍵である学生証を握り締める。  なんで、梓先輩なんだ。  休みの前の日、俺に好きだって言ったくせに。  俺を抱いたくせに。  抱いた途端におざなりにされて、その真意が全く掴めない。  やりたいだけだったとか、側に俺がいたからとか、俺が、引き止めたからとか……。  『ここにいて欲しい』って言って俺を副寮長に誘ったくせに。  『響』って、何度も俺の名前を呼んだのに。俺に求めさせたくせに。  グッと唇を噛み締めて俯いた。  込み上げる熱い塊が鼻の奥を熱くさせる。あふれ出しそうでギュッと目を閉じた。  4日間の休み。昼間は梓先輩がいたから何も無かった。だけど、夕方には寮に帰って行ったから夕飯は一緒に食べた。  大浴場は連休中は使えないから部屋でシャワーを浴びた。その濡れて上気した姿にドキドキした。だけど、あの一度きりで、俺に触れてこないし。名前も呼んでくれなかった。  もう、俺は必要ないって……ことだろうか。  その場にしゃがみこんだ。  部屋には帰りたく無いし、行くところも無い。胸は苦しいし……。  扉に向かって座り込んで組んだ両手に顔を埋めた。             

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