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『苦渋』
「……ごめ……っ……俺……も、どうしたらっいいか……わかんな」
帰りたくないし、会いたくないし、だけど、抱き締められるとそれ以上に歓喜してしまう。
感情のコントロールが出来なくて、人前だというのに、その腕の中で泣き崩れてしまうし……。
舌打ちなんてされて胸が締め付けられるほど苦しくなって、もう、どうしていいかなんて分からない。
無理やりに靴を脱がされて、俺を引きずるようにして中に入った。
ただ、好きなだけなのに。それも叶いそうにないほど突き放されているのが苦しくて。
「もう。響ちゃん。こっちおいで。そんな鈍いやつ捨てちゃいな」
グイッと腕を掴まれて、桃香先輩から無理やり引き離された。
「何で、泣かすかなぁ」
で、その腕に俺を抱き締めて頭を撫でているのは梓先輩だった。
「梓」
俺を引き戻そうと俺の肩を掴むが、「一臣はちゃんと響ちゃんと相談しなよ。僕はもう協力はしないから」と言って俺を放した。
途端に戻される桃香先輩の腕の中。
2人のやり取りにすっかり涙は止まった。
「協力って……何?」
俺が尋ねると桃香先輩は眉間に皺を寄せて、「別に」と答えた。
「それがダメだって。一臣はねぇ、僕に、『襲いそうだ』って泣きついてきたんだよ。馬鹿みたいでしょ? しかも、響ちゃんがあんまりにも痛そうだったからしたくない。なんて強がって……だから、この休み中僕をここに呼んだんだよ」
「梓っ」
桃香先輩がベラベラ喋るのを止めようとするが、梓先輩はそれでも喋り続ける。
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