104 / 121

『苦渋』

「……ごめ……っ……俺……も、どうしたらっいいか……わかんな」  帰りたくないし、会いたくないし、だけど、抱き締められるとそれ以上に歓喜してしまう。  感情のコントロールが出来なくて、人前だというのに、その腕の中で泣き崩れてしまうし……。  舌打ちなんてされて胸が締め付けられるほど苦しくなって、もう、どうしていいかなんて分からない。  無理やりに靴を脱がされて、俺を引きずるようにして中に入った。  ただ、好きなだけなのに。それも叶いそうにないほど突き放されているのが苦しくて。  「もう。響ちゃん。こっちおいで。そんな鈍いやつ捨てちゃいな」  グイッと腕を掴まれて、桃香先輩から無理やり引き離された。  「何で、泣かすかなぁ」  で、その腕に俺を抱き締めて頭を撫でているのは梓先輩だった。  「梓」  俺を引き戻そうと俺の肩を掴むが、「一臣はちゃんと響ちゃんと相談しなよ。僕はもう協力はしないから」と言って俺を放した。  途端に戻される桃香先輩の腕の中。  2人のやり取りにすっかり涙は止まった。  「協力って……何?」  俺が尋ねると桃香先輩は眉間に皺を寄せて、「別に」と答えた。  「それがダメだって。一臣はねぇ、僕に、『襲いそうだ』って泣きついてきたんだよ。馬鹿みたいでしょ? しかも、響ちゃんがあんまりにも痛そうだったからしたくない。なんて強がって……だから、この休み中僕をここに呼んだんだよ」  「梓っ」  桃香先輩がベラベラ喋るのを止めようとするが、梓先輩はそれでも喋り続ける。 

ともだちにシェアしよう!