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『苦渋』
「今日なんて、最終日だから我慢できないかもって、僕に泊まるように言うし。響ちゃんが痛がったのも一臣が我慢できなくて、ガンガン責めたからじゃないの?」
「ばっ馬鹿っ。俺はガンガン攻めてなんか無い。響がもういいって泣き出したんだ」
「それを我慢させるテクが無いって事だろっ」
「仕方が無いだろうがっ、俺だって男は初めてだし、どこまでしていいかなんて分かるかよっ」
2人のやり取りに耳を塞ぎたくなった。
「教えてくれって言えばいいじゃん」
「言えるかよっ」
桃香先輩は声を荒げて反発した。
「もう、もう止めて」
俺は耳まで赤くなりながら、桃香先輩の胸を押し返して、袖で涙を拭うと、「そんなこと他人に相談するところから無神経すぎる」と桃香先輩に小さな声で抗議した。
それにそんなことで俺が放置されてたとか、痛すぎる。
「何で泣いてたんだよ」
「も、もいいよ」
嫌われて放置されてたとか、その場だけってことじゃ無かったことが分かったから事は済んだ。別の方向に悩まなければならなくなったけど。
「もういいって何だよ」
グッと腕を引かれてその手を振り払おうとすると、梓先輩が、「僕、帰ろうか?」と話しかけられた。
「まだいろ」
引き止めて、俺の腕を掴んだまま近づく。
さっきから桃香先輩は普通に喋っている。俺を誘うその声に弱いのだ。なのに今耳元なんかで喋られたら、余計に煽られる。
腕を取られたまま仰け反って避けると、桃香先輩の眉間には皺が寄った。
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