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過去

 陽斗はタオルで体を拭きながら真っ裸で浴室を出た。そのままソファにどかっと座る。浴室に入る前に暖房を点けておいたので、部屋はほどよい具合に暖まり快適だった。  テレビを点けてみたが、こんな日曜の早朝にやっている番組なんて面白くもなんともなかった。それでも部屋が静かなのには抵抗があって、そのままにしておく。  ぼうっとテレビの画面を見つめながら、なんとなく昔のことを思い出していた。  陽斗が自分はどうやら男が好きなようだと気づいたのは、中学生の頃だった。周りの男の同級生たちがクラスの女子たちに興味を持ち始めて、水泳の水着姿などに興奮する中、陽斗は仲が良かった男子クラスメイトの体操着の汗の匂いに興奮した。女みたいな顔だと言われそれなりにモテたので、何度か女の子にも告白を受けたのだが、どうもしっくりこなかった。  違和感がありつつも、他のみんなと同じように何人かの女の子と付き合ってはみた。初体験も、相手に促されるままに終えた。それはそれなりに悪くはなかったが、でもやっぱり、女子特有の柔らかな体よりは、男の華奢だが筋肉が少し付いた骨張った体の方が触れたい欲求が大きかった。  自分は男が好きなのだと気づいてしまっても、当時の陽斗には戸惑うことしかできなかった。誰にも相談できず、悩みに悩んで、高校卒業間近に両親に思い切って打ち明けてみた。しかし理解を得られることはなかった。  大喧嘩をして、進学予定だった大学にも行かず、高校卒業と同時に家を飛び出して、上京した。  あれから6年ぐらい過ぎたが、飛び出したまま実家には一度も帰っていない。  ソファから立ち上がってキッチンへと向かい、冷蔵庫から炭酸水を取り出した。その場でボトルの蓋を外すと、立ったまま一気に飲み干した。空になったボトルをゴミ箱に投げ入れて、リビングに戻る。テレビを消し、暖房も消し、リビングの電気も消すと、寝室へと入った。  下着だけ身に着け、温かい羽毛布団の中へ滑り込む。カーテンから僅かだが日光が差し、外の世界が活動的になる時刻を知らせていた。  陽斗は、その世界と自分を遮断させるかのように布団を頭から被って、暗闇の中、目を閉じた。

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