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目の保養

 仕事が休みの平日。陽斗はいつもの通り、世間一般の健全な人たちがするように朝早く起き、朝食を作ってしっかり食べた。食後のコーヒーをすすりながら窓辺から外を何ともなしに眺める。今日の東京の空は濃い灰色の雲がどんよりと広がり、今にも雨が降り出しそうだった。空を飛ぶ鳥たちも心なしか寂しそうに見える。  ふと、マンション下の道路に視線を落とした。マンションのエントランスから出てくる人影が目に留まる。  今日は黒スーツやねんな。  平日のこの時間。マンションから駅方面に向かうその人影を窓から観察するのが習慣になっていた。その人影が隣に住む『斉藤さん』だと知ったのは、つい2週間前ぐらいのことだった。  陽斗は前からその『斉藤さん』を知っていた。何ヶ月か前にいつものように自分の部屋の窓からぼうっと外を眺めていた時に、『斉藤さん』がたまたま視界に入ってきたのだった。 『めっちゃ、男前やなぁ』  遠目から見ても分かるほど、スタイル抜群のすらっとしたスーツ姿。色白で女のように綺麗な顔のその男にたちまち心を奪われた。なんせ陽斗はイケメンの男が好みだったので、『斉藤さん』は陽斗のタイプにドンピシャだったのだ。とは言っても、ゲイでもない男に手を出すことは陽斗の中のゲイとしてのルールに反した。  そんなわけで『斉藤さん』に関しては、目の保養に見るだけで留めておこうと考えて、仕事が休みの平日にはこうして窓際に待機して、彼が出てくるのを待つようになったのだ。

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