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友人井上

 ブルブルと陽斗の携帯が揺れた。コーヒーを飲み干して、携帯を取りにリビングテーブルへと向かった。  表示の名前を確認して、電話に出る。 「もしもし」 『あ、ハルくん? もう起きてた?』 「おん、起きてたで」 『良かった。そしたら今から遊びに行っていい?』 「ええよ」 『そしたら行くわぁ。後でねー』 「おん」  短い会話をして電話を切る。朝シャワーを浴びたままの、下着1枚とTシャツという格好だったので、服を着るために寝室へ向かった。  1時間ほどしてチャイムが鳴った。オートロックを解除して、玄関の鍵も開けておく。しばらくすると、カチャっと扉が開いた音がした。  お邪魔しまーす、という声が聞こえ、廊下を見ると、井上健太がまだ12月初旬にも関わらず、派手な色の防寒着をこれでもかというぐらい着込んで入ってきた。 「外、そんな寒かったん?」 「おん、寒かったでぇ。今日天気悪いし。あ、これ、お土産」  井上が、最寄りの駅前にある洋菓子店の名前が書かれている大きな箱を差し出した。 「俺、甘いの苦手なん知ってるやん。なんでケーキなん?」 「やけど、エクレアだけは好きやん、最近」 「好きやけど……。これ、何個あるん?」 「10個」  もう長い付き合いなのに。時々井上の頭の中が理解できない時がある。  まあ、ええけど。  陽斗はその箱をそのまま冷蔵庫に押し込んだ。井上のためにコーヒーを淹れる。  井上は、陽斗の高校時代の後輩だった。小柄で童顔で、陽斗に負けず劣らず可愛らしい顔をしていたので、一緒にいると兄弟かと勘違いされることもよくあった。当時から天然具合が酷い男だったのだが、陽斗とは妙に気が合い、学生時代にはよくつるんでいた。とは言っても学年も違ったこともあって、プライベートに2人で遊ぶほど親密な関係でもなかった。  しかし、陽斗が家を飛び出して大阪から上京し、ゲイバーに住み込みで働いていた時、井上が高校卒業後上京してきたことがきっかけで、友達として深く付き合うようになった。再会して数ヶ月後、一人暮らしをする資金もない陽斗を気の毒に思ってか、アパートに来ないか、と同居を誘ってくれたのも井上だった。  一緒に暮らし始めて数年、井上は服飾関係の仕事に就くために東京の専門学校に通っていた。もともとファッションについて独特なこだわりを持っていて、女物のワンピースをチュニックとして取り込んだり、ピアスを色んなところに空けたり、もう何色がメインなのか謎な全身異なる色だらけの服を着ていたりしていた。しかし、それが井上には違和感なく似合ってしまうのだから不思議だ。  そんな井上は、専門学校を卒業後は大手アパレル会社に見事就職を果たし、今はその会社から派遣されて渋谷にあるアパレルショップで店長として働いている。

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