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お茶のお誘い
マンションに着いて、一緒にエレベーターに乗り、それぞれの玄関まで辿り着いた。
「そしたら、また」
軽く微笑んで挨拶してから自分の家に入ろうとしたのだが、『斉藤さん』が、あ、あのっ、とちょっと緊張を含んだ声で陽斗に話しかけてきたため、右手でドアノブを掴んだまま動きを止めた。
「……どうしたん?」
「あの……傘入れてもらったお礼に……お茶でもどうですか?」
「やけど……ええの? 仕事帰りで疲れてるんちゃう?」
「いや、大丈夫です。その……もうちょっと、話してみたくて……」
「は?」
「いや、あの……長谷川さんと。折角会えたんやし」
「…………」
『斉藤さん』の意図がよく読めなかった。いくらずっとお隣だったとはいえ、知り合ったばかりの人間を簡単に家に入れるような警戒心がない感じの人間には見えなかったし、だとすれば、何か目的があってのことなのだろうか?それとも、ただ単純に陽斗が気に入られたのだろうか。友達候補として。まさか、『斉藤さん』もゲイだということはあるまいし。
陽斗の心を読んだのか、『斉藤さん』が慌てた様子で説明し始めた。
「あの、突然やし、変に思わせたんやったらすみません。やけど、長谷川さんも関西出身みたいやし、俺も大阪から出てきて、人見知りやから友達もあんまおらへんし、同郷の人に会うのも久しぶりでなんや嬉しなってもうて」
必死になって言い訳する『斉藤さん』が可愛く思えた。陽斗は、誘いを受けることにした。
「おん。ええよ。そしたら、ちょっとだけお邪魔しようかな」
急遽お邪魔することになった『斉藤さん』の家は、身なりからも想像できる通りの、綺麗に整頓された、無駄のないスッキリとした住まいだった。
「長谷川さん、コーヒー飲みますか? それとも、お酒の方がいいですか?」
「じゃあ、コーヒーで。それと、敬語じゃなくてええから。年、同じぐらいやろ?」
「ああ、そうですよね……やなくて、そうかな……。俺、今年で25やねんけど」
「ほな、同じやん、学年。俺、来年1月で25やから」
「そうなんや。奇遇やね」
「あと、さん、も要らへんよ。長谷川か陽斗でええから。陽斗は下の名前な」
「あ、そしたら、長谷川って呼ぶな。俺も斉藤か和樹で……」
「おん、分かった。ほな、斉藤って呼ばせてもらおかな」
「なんでもええよ」
淹れてもらったコーヒーをすすりながら色々な話をした。斉藤和樹は、照れ屋なのか緊張するタイプなのか、最初はボソボソと陽斗の質問に答えるだけで無口だったが、陽斗の物怖じしない接し方に慣れてくると、段々と口数も増え、表情もリラックスしたものに変わっていった。
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