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これはキスなのか?
「おおっ、これ、めっちゃええとこの焼酎やん。どうしたん?」
「やって、長谷川、誕生日やろ? 1月。やから、お祝いも兼ねて買うてん」
「覚えててくれたん?」
「おん。日付は聞くの忘れてたから、あれやけど」
「そんなんええねん。その気持ちが嬉しいわ。ありがとうな」
「飲もか」
1月のある夜。いつも通り陽斗の家に遊びに来ていた斉藤が、陽斗の誕生日にと高級な焼酎を買ってきてくれた。陽斗は種類を問わず何でも飲むが、中でも焼酎が一番好きだった。出会った時にちらりと1月生まれだと話したことを斉藤が覚えていて、しかも陽斗が焼酎好きなことまで察して用意してくれたプレゼントに感動する。
「今日はいっぱい飲むわっ」
そう宣言し、焼酎を水のように飲んでいく。
「ちょお、大丈夫か? ペース早ない?」
「ええやん、ええやん。家飲みやしぃ。俺、めっちゃ嬉しいねん、今」
ニコニコしながら次々と焼酎の入ったグラスを口に運ぶ陽斗を、斉藤は心配そうにしつつも、微笑んで見つめていた。自分の体がふわふわして、気持ちよくなっていく感覚を楽しんだ。
ああ、俺、めっちゃ、酔ってんなぁ。ぼんやりとした頭でそう自覚する。
そう。そこまでは、記憶があった。
『はるちゃん』
ん?
耳元で誰かが囁き、顔に何か触れるのを感じて目が覚めた。ぼうっと目だけ動かして見渡すと自分の家のリビングだった。ソファの上に寝転んでいるようだ。
さわさわっとまた何かが顔に触れる感覚がして、目をそちらに向けると。そこには目を瞑って、うっとりとする斉藤のアップの顔があった。斉藤の柔らかい髪の毛が陽斗の頬をくすぐる。顔に触れていたのはどうやら斉藤の髪の毛だったらしい。
何してるんやろ?
意識がまだはっきりと戻ってこない。どうやら自分は酒を飲み過ぎてダウンしてしまったようだが。ふと唇に何か柔らかい感触がして数秒後、自分が斉藤にキスをされていることに気づいた。
は??
いや、厳密に言えばキス、ではないかもしれない。確かに斉藤と唇が重なっている。舌も入れられている。だけれど、斉藤の舌はなぜか、陽斗の口内に深く侵入することなく、陽斗の舌には見向きもせず、ただ陽斗の歯表をひたすら舐めていた。
何、これ?
陽斗は両手で斉藤の両肩を掴んだ。はっと斉藤が目を開けた。数センチの距離で目が合う。斉藤が慌てて唇を離して、陽斗から離れた。
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