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奉仕

 そこで、しばらく気まずい沈黙が続いた。  この先、斉藤とどう付き合っていこうか考える。別に斉藤の性癖を気持ち悪いともなんとも思わない。けれど、斉藤が求めているのはきっと、女の八重歯じゃないのだろうか?いくら好みの八重歯だとしても、男の八重歯に夢中になるのは、斉藤にとっても本当は不本意で不健全なことではないのか?自分と友達として付き合っていくのは、果たして斉藤にとって良いことなどだろうか?  そんな風にうだうだと考えあぐねている内に、斉藤が申し訳なさそうに再び口を開いた。 「嫌な思いさせてもうて、ごめん。俺、もうここには来うへんから。気持ち悪いやろ?」 「…………」  その言葉に、斉藤自身に対しても全く抵抗のない自分に気づく。なんせ自分はもともとゲイだし、店の客の中にはもっときしょいことをしてこようとする奴もいっぱいいたし。しかもそういう客はたいがい不細工だし。  それに比べれば、陽斗好みの顔をした斉藤の性癖なんて取るに足らないことに思えた。 「なあ……。斉藤はもう彼女作らへんの?」 「……おん。この性癖は直されへんし。受け入れてくれる子ぉもおらんやろうし」 「そしたら、辛いやろ。その性癖欲を満たすことができへんのやから」 「まあ……やけど、しゃーないやんな」 「……ええよ」 「は?」 「俺の八重歯で良かったら、触ってくれても、舐めてくれてもええよ」 「……何言うてんの? あかんって」 「あかんくないよ。俺、別に平気やから」 「やけど……」 「斉藤……。俺も、1つ言わなあかんことあんねん」 「……何?」 「俺、ゲイやねん」 「え??」 「飲食業って言うてたけど、ゲイバーで働いてんねん」 「…………」  陽斗の告白が予想外だったらしく、斉藤は大きく目を見開いて、口は半開きのまま、ただ陽斗を見つめていた。  まあ、そういう反応になるわな。  それは、ゲイではない人々にカミングアウトした時に幾度となく見てきた反応だった。たいていその後、みんな陽斗から目を逸らし、そそくさと離れていく。 「やから。男にそんなんされても抵抗ないねん。俺で良ければ奉仕、言うか、協力するけど。まあでも、ゲイの方がもっと気持ち悪いやろ。やから、無理にとは言わへんし」  ああ。これで斉藤との友達関係も終わったな。  そう思った。ほら。あと数秒もすれば、斉藤も自分から目を逸らし、そそくさと家に帰っていくだろう。

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