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奉仕する日々

「へえ、八重歯フェチ?」 「そうやねんて」 「面白いなぁ。全然そんなヘキ持ってるように見えへんのにな、斉藤さん」 「人は見かけによらへんからな」  せやなぁ、と言いながら、井上はテレビのリモコンを取ってチャンネルを『天才!志村どうぶつ園』に変えた。  陽斗と斉藤が部屋を行き来するようになってから、井上も混ざって一緒にご飯を食べたり酒を呑んだりする機会ができた。最初、奇抜な格好の天然井上に対して、斉藤はどう接してよいか分からないようでまごまごしていた。だが、人の良い井上の人柄に触れる内にそんなまごまごは解消していったようだ。今では陽斗が間に入らなくても仲良く自然に会話をしている。  ここのところ忙しくて顔を見せてなかった井上が、久しぶりに陽斗の家に遊びに来たので、陽斗と斉藤の関係が、ただの『友達』関係から奉仕型の『友達』関係になってしばらく経つことを報告していたのだった。 「健太やってあるやん、フェチ。なんやったっけ? ホクロやった? 手の」 「ああ、うん、指と指の間とかにポツンってあるホクロやで。特に親指と人差し指にあって、大きさが0.7ミリ以内のがええねん」 「……細かいよな」 「そう? まあ、やから、斉藤さんの気持ちも分かるわぁ。誰にも理解されへんかもしれへんけど、人それぞれ興奮するポイントは違うねんなぁ」 「まあな……」 「で、ハルくんが奉仕してあげてるん?」 「まあ……奉仕って言えるもんなんか分からんけどな」  斉藤の八重歯フェチが判明してから、陽斗は斉藤と会う度に、要求されれば嫌がらずに自分の八重歯を提供していた。  最初の内は、斉藤も遠慮してなかなか言い出さなかったりしていたが、状況に慣れてきてそれがほぼ習慣化すると、段々と積極性が増して八重歯を弄られる時間も増えていった。たいていの場合、斉藤が『はるちゃん』とちょっと甘えるような声で言うのがトリガーで、それに応じて陽斗が『ええよ』と言えば、八重歯タイムの始まりだった。  具体的に何をされるかと言えば、ただ、ひたすらキスされるか、指で触られるだけなのだった。キスと言っても、舌は中に深くは入って来ず八重歯に固定され、ただひたすら前歯をなぞりながら両八重歯を行ったり来たりするのだった。

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