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まだこんなに好き

 斉藤は、自分がものすごい勢いで陽斗の肩を揺さぶっていたことにようやく気づいたようで、はっと動きを止めると、両手をそっと離した。さっきの勢いはどこへやら、しゅんと肩を落として悲しそうな顔でじっと陽斗を見る。 「ハルちゃん……。なんで、おらんくなったん?」  どうしようか迷う。正直に話すべきかどうか。今更誤魔化したところで、逃げ出した後のこの状況が変わるわけでもない。だったら、心配をかけた斉藤に正直に話すことが筋ではないだろうか。短い沈黙の後、陽斗はゆっくりと口を開いた。 「……そんなええ話でもないで。それでも聞きたいか?」 「……聞きたい。ちゃんと理由聞かへんと、俺かて納得できへん」 「……分かった」  ふうっ、と小さく息を吐いて、真っ直ぐ斉藤を見上げた。久しぶりに見る、色白の綺麗な顔を正面から見つめる。 「俺な、斉藤が好きやねん」  斉藤の目が微かに見開いた。陽斗は勢いを付けて言葉を続けた。 「やから。斉藤に奉仕してるんが、辛くなってん。斉藤に何の情もないのも分かってるし、俺自身やなくて、俺の八重歯がよくてキスされてんのも分かってたで。やけど、俺はもうそれを冷静に受け止めることはできへんかった。その先を求めてまうし、期待もしてまう。そんな状態で斉藤と一緒にもおられへんかった。お前がゲイやなくてノンケやったから、尚更この気持ちは言われへんかった」 「ハルちゃん……」 「逃げるしかなかってん。斉藤と面と向かって話したら、自分の気持ち言うてしまいそうやったから。それは絶対避けたかってん。迷惑かけたくなかったし」  じっと陽斗を見つめ続ける斉藤の顔。  ああ。まだ、こんなに斉藤が好きだ。  目の前に現れただけで、感情が高ぶってどうしようもなくなる。心の中の何かが強く揺すぶられる。

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