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 その日、眉目秀麗という言葉すらも霞むほど美しい顔を引っ提げ、塁は懇親会という名の合コンに参加していた。  漆黒の艶めく髪は常にオールバックに整えられ、顔面には一切の遮蔽物はない。くっきりと入った二重の幅は広く、鼻筋は綺麗に通っており、艶やかな光を放つ唇は程よく厚みを持っている。そんなアルファの中でも群を抜いて整った見た目と、国内最強のアルファ家系と名高い家柄から、塁には男女問わずひっきりなしに人がすり寄ってくる。この日も、同じ部署の同僚から「同期同士で飲みに行こう」と誘われて付いてきたのだが、蓋を開けてみれば別業界の女性たちとの合コンだった。  あの『鷺ノ宮』の人間が来る、と吹聴して集めたのだろう。パーティーにでも行くのかと思わせるようなきらびやかな衣装に身を包んだ女性たちは、塁が現れた瞬間、即座に色めき立ち、先に来ていた他部署の男たちには目もくれずに塁を取り囲んだ。  いつもこうだ。アルファにしては高圧的な態度を取らない、いや、むしろ腰が低いくらいに穏やかな塁は、誘われたり頼まれたりすると断ることができず、あれよあれよと色んな所に駆り出される。一番多いのが、今回のような合コンの客寄せパンダだ。 「塁くん本当にかっこいいね!」 「モデルとかすれば良かったのに! 会社員なんてもったいない~」  女性陣からは獲物を見つけたハンターのような視線を、男性陣からは嫉妬の視線を向けられつつ、はは、と愛想笑いをしてジョッキに半分ほど残っていたビールをぐい、と一気に喉に流し込む。炭酸の弾ける泡と特有の苦味が喉を通り、陰鬱な気持ちを少しだけ浮上させた。  塁を誘った同僚たちは、塁が絶対に女性を持ち帰らないこと、そして二次会には参加しないことを知っている。だからこそ、これだけ女性を独り占めすることになっても、次から次へ合コンに誘われるのだ。  とはいっても、この視線に毎回晒されるのは流石に気が滅入る。何回か回を重ねれば慣れるかと思っていたが、むしろどんどん辛くなるばかりだった。 「ごめん、ちょっとお手洗い」  少し強引に隣に座る女性を押し退けて、塁が居心地の悪い宴席から抜け出すと、店の入り口のほうから近付いてくる顔があった。遠くからでも見惚れるほどの美丈夫は、外の暑さからか端正な顔をしかめながらはあ、と息を吐く。額に汗を滲ませ、毛先を遊ばせた飴色の髪をかきあげる様は、耽美なドラマのワンシーンのようにさえ思えてしまう。その伏せられていた目がゆっくりと上がり、塁の姿を捉えた。 「塁、やっぱりまた呼ばれたのか」 「(しゅう)、よかった! お前も呼ばれてたんだな」  塁に負けず劣らぬ美貌の持ち主は、塁の安堵の声色に笑みを浮かべながら溜め息を吐く。  島津周(しまづしゅう)。製薬会社を経営する島津家の長男であり、塁の幼馴染みで塁が唯一心を許している友人だ。周も塁と同じくアルファで、親同士が元々仲が良かったことから、生まれてからもう二十五年の付き合いになる。 「まあどうせお前が呼ばれてるだろうからと思ってな。最近あんまり会えなかったしな」 「納期でバタバタしてたからな。でも周ならいつでも呼んでくれれば行くのに」  何でも引き受けてしまう塁とは違い、周ははっきりとした性格で、面倒なことはきっぱり断れるタイプのはずだが、何故か合コンだけは文句を言いつつも毎回参加している。周曰く、断りきれない塁が面倒なことに巻き込まれないか心配してのことらしい。 「で、もう帰るのか?」  周にそう聞かれ、塁はトイレに行くために席を立ったことを思い出す。あまり長く席を空けると何を言われるか分からない。これ以上面倒事は避けたいと、塁は「トイレ行ってくる」と周に返事をして目的の場所へ向かった。

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