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【宣戦布告】2~三木葉介~
その数日後――。八月も半 ばに差し掛かり、世間は盆休みに入った。平日の昼間だというのに街は休日のように賑 わっている。この時季に夏休みを取る人間が多いせいだろう。駅前の洋食屋もいつも以上に忙しくなっているらしい。毎年のことではあるが、ここ数日、三木は店に駆り出され、出勤日が続いていた。ただし、多忙な中でも晶のことだけは片時も忘れられなかった。洋食屋までの道を歩き、大きな交差点の信号待ちでポケットに手を突っ込み、ふとケータイを取り出す。しかし、その画面を確認してすぐに仕舞う。相変わらず、晶とは連絡が取れないままだった。あれから、何通かメールを送っているが、彼が反応を示してくれることはたったの一度すらもなかったのだ。
何かあったのかな。青野に……聞いてみようかな。
あの花火大会の日までは、三木には期待すらあった。たった数週間でも、晶との距離がぐんぐんと縮まって、このままひょっとしたら恋人と呼べるような関係になれるのではないだろうか、と本気で思っていた。しかし、今となってはとてもそんな風には考えられない。彼と過ごした日々も、彼から少なからず感じていた好意も、すべては夢か幻のようだった。
晶――。今頃、どうしてるんだろう。
やがて信号機が青に変わり、それを知らせる音がする。三木は深くため息を吐 き、大勢の人の波に流されるようにして、歩き出した。だが――。
「あれ……」
ふと、横断歩道のど真ん中で足を止める。その先を歩いていく見慣れた二人組を見つけたのだ。一人はガタイが良く、背が高い男。髪は短い黒髪。その隣を歩くのは、栗色のふわふわ頭。背は低い。
「晶――」
恐らくは間違いない。ほんの数メートル先を歩いているのは、晶と純だ。晶の肩には純の手が乗せられていた。そのせいだろうか。二人の距離は随分 と近い気がした。
「純ちゃん……っ、歩きづらいよ……!」
「なんだよ、照れてんのか? ちびだから気遣ってやってんじゃん」
「平気だからほんと……、あんまくっつくのやめて。暑いから!」
なんだ……。晶、元気そうだな。
明らかに仲の良い二人の会話が聞こえてくる。その途端、三木の胸の内側はズキン、と鋭い痛みを持った。思わず顔を歪 め、左胸を手で押さえる。
もしかして、晶は青野とうまくいったのかもな……。
不意にドンッ、と後ろから人にぶつかられて、舌打ちをされた。通り過ぎて行く人々に睨 みをきかせられ、三木はハッと我に返る。かぶりを振って再び歩き出す。こんな所で立ち止まっている場合ではない。バイトに遅れてしまう。今日もきっと忙しいのだから、遅刻したら良くない。それを考えながら早足で横断歩道を渡る。人の波から逃げるようにして、細道に入る。
良かった。元気そうだった。好きな人の隣で、幸せになれるならそれでいい。晶が幸せなら俺はそれでいいんだ。
そう自分に言い聞かせながら、無理やり納得をして、三木は歩いた。もう一人の自分が心の奥底でひたすら「嘘つきだ」と言うのも、汗が滲 んで玉になって、こめかみから頬へじれったく垂れていくのも気にしない。そうしていなければ、三木は寂しくて、苦しくて、どうにかなってしまいそうだった。
変だなぁ。晶といた時間なんか、先生を好きだった時間から考えれば本当に少しなのに。すぐ忘れちゃったっていいはずなのに。それなのに、こんなに泣きたくなるなんて。
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