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【夏の終わり】3~東山晶~
三木先輩……。
確かにここに、三木がいる。それが嬉しくて、晶も三木の体にしがみつくようにして、ぎゅっと抱きしめる。そして、もう一度言った。
「おれ、先輩が好きです……。好きに、なっちゃったんです……」
「すごく嬉しい。俺もね、初めて会った時から、ずっと晶が好きだったんだよ」
「初めて……会った時から……?」
「そう。あぁ、もう……、晶! やっとつかまえた……!」
くすくす笑う声が耳元に触 れて、少しくすぐったい。晶は笑っている三木の顔が見たくなって、顔を上げた。
「一目 惚 れだったんだ。でも、もう嫌われたか、青野に取られちゃったんだと思ってた。晶のこと、いい加減もう諦めなくちゃなって思ってたんだけど、でも……、ずっと忘れられなかったよ」
「先輩……! おれも……、おれもずっとほんとは会いたくて……! 会いたくて――」
晶は再び三木にぎゅっと抱きしめられる。何度も何度も、強く。まるでその度に好きだと言われているような感覚に、晶はすっかり恍惚 としてしまった。心臓はドクドク波打つように鳴って、体は火照 っていく。恥ずかしくて、照れくさくて、でもとても嬉しかった。しかし、抱かれながらふと気づく。三木の心臓も晶と同じように大きく高鳴っていた。晶はその音にうっとりと耳を傾 ける。
先輩も……こんなにドキドキしてる……。
「先輩……」
「晶……。俺も、ずっと会いたかった」
甘い声と言葉に、胸の奥がきゅうっと狭くなったように苦しくなる。額 を三木の胸に擦 りつけてぎゅっと抱きしめてから、晶は言った。
「あの……! おれは先輩よりも二歳も年下だし、チビだし、ガキっぽいとこもあるけど……! 今に絶対、先輩と並んでも釣り合うような大人の男になります! おれ、頑張るから――」
だから、恋人になりたい。そう言おうと思った。けれど、晶の言葉を遮 って三木は言った。
「頑張らなくていいよ。俺はどんな晶も大好きだから。それに俺もヤキモチ焼きだし、きっと重いし、すごく面倒くさいと思う……。でも晶のこと、絶対大事にする。だから――」
目がまた熱を持って潤んでいく。頬に手を当てられ、晶は一度だけ瞬きをした。涙が零 れれば、三木はそれを指先でそっと拭 ってくれる。
「晶。俺の恋人になってください」
「はい……!」
頷いて、笑みが溢れる。やっぱり少し照れくさい。けれど温かく、心地よくて、胸がいっぱいになる。やがて、見つめ合っていた三木の顔がゆっくりと近づいてきて、晶はぎゅっと目を閉じた。
「ん……」
唇には柔らかな熱が重なった。触 れ合っているそれから、じんわりと三木の体温が伝わってきて、自分の体温とゆっくり混ざっていく。しばらくして唇が離れた。そうしてまた、晶の体は三木の胸に抱きしめられる。
「はぁ……。可愛い。晶、大好き」
「おれも……」
「今日は離したくないなぁ。ずーっと晶とこうしてたい」
「先輩……、家族の人、帰って来ないんですか?」
「あぁ、今日は二人で舞台観に行っちゃったんだ。もう少ししたら帰って来るかな」
「そ、そうなんだ……」
抱きしめられているせいで、今が何時なのか、晶には確認することができない。三木の言う「もう少し」がどのくらいなのかもわからない。晶はただ、三木の胸に顔を埋 め、心臓の音を聞きながら、心の中で何度も「好き」と呟いた。それだけで途方もない幸せを感じられる。ところが、次第に。どんどん欲張りになっていく自分がいた。三木とこうして抱きしめ合っているこの甘い時間を誰にも邪魔されたくなくて、一刻、一刻過ぎていくのも惜しくなる。
このまま……、おれも先輩と離れたくない。もっと、もっと一緒にいたい……。
そう思った時、三木が不意に訊 ねた。
「晶。まだ帰らなくて大丈夫?」
「は……、はい……」
「じゃあ、もうちょっとだけ、親が帰って来るまで、こうしてていい?」
「はい……」
晶が頷くと、三木は、はあっと安堵 したようなため息を吐 いた。熱い吐息が耳にかかる。「晶……」と呼ばれてふと顔を上げると、再び晶の唇に、三木のそれが重なった。
「ん……、ふ……」
優しく触 れ合うようなキスをされながら、だんだんと互いの唇が強く吸いついては擦 れ合うようになる。もう今にも心臓は爆発しそうだ。全身が発火しそうなほどの熱を持ち、頭の中はぼうっとしてしまって、三木のことしか考えられなくなっていく。初めて感じるふわふわしたその感覚は、ひどく心地のいいものだった。
「ね、晶」
「はい……?」
「俺、ファーストキスだ」
「あ、おれもです!」
どちらともなく、こつん、と額 をくっつけて、ふふ、と笑い合う。互いにそれがファーストキスだと気付いたのは、もう数えきれないほどのキスをした後だった。 その後、しばらくしてから三木の両親が帰宅して、晶の体は三木から離される。時刻は夜の八時を回っていた。
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