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出会いと始まり③/精一杯のアピール

 忘れもしない蓮二さんとの最初のデート。  デート、とは言っても仕事後に二人で飲みに行っただけ。  まだまだ全然「デート」って感じがしない、単に男二人だけの飲み会だった── 「蓮二さん、お疲れ様です」 「お疲れ」  二人で並んでカウンターの席に座り、ビールで乾杯。それだけなのに、この距離の近さに緊張してしまう。肩が触れそうで、顔を見たら鼻息ふっかけてしまいそうで、呼吸を整えながらひたすらドキドキして話題を探した。  最初の出会いからこの日を迎えるのに思った以上に時間がかかった。  蓮二さんの仕事先は学習塾。俺の仕事終わりとは時間が合わない。メッセージを入れても既読がつくのはだいぶ時間が経ってから……俺はもどかしい毎日を過ごしていた。  「いつ会える?」「今なにしているの?」こんな何でもないことでも、蓮二さんがどう思うか気にしてしまって思うように伝えられない。自分がこんなに臆病だったなんて知らなかった。  男の蓮二さんを口説きたい……友達からでもいいから。そう言って俺は蓮二さんから連絡先をゲットした。蓮二さんは男の自分と友達の先があるのか? と俺に疑問を投げかけたけど、うん、普通はそう思うよな。女ならともかく同じ男から口説かれるなんて滅多にあることじゃない。  それにあの日、何もないと言っていたけど、きっと俺は蓮二さんに何かしらの手を出してしまっている。それなのに、何もないことにしてくれてこうやってまた俺と会ってくれるんだ。蓮二さんの気分を害することは絶対あってはならない。そう思ったらなかなか前に進めなかった。 「智は俺より二つ年下なんだな。もっと下かと思ったよ」  居酒屋で酔い潰れていた俺の姿を見て、若いなって思ったらしい。まあ確かにバカみたいな酒の飲み方をしていた。凄え恥ずかしかったけど、何だかニコニコとしている蓮二さんを見ていたら嬉しくなってしまった。  二つしか歳が違わないのに、蓮二さんは何でこんなに落ち着いて見えるのだろう。包容力っていうの? 俺と違って大人の男に見えるし、余裕もあって、全部見透かされているみたいでドキドキする。きっとあの夜のことも、いきなりのアプローチも、蓮二さんにとっては些細なことで大したことないのかもしれない。  言い寄ってくる数いる女性の中に俺みたいな異端が一人いたところで気にも留めないのかもしれない…… 「今日は潰れるまで飲むんじゃないぞ? でももう顔、赤いな。酔っちゃった? まぁ万が一酔い潰れても俺がまた介抱してやるから心配するな」  笑顔でそう言って俺の背中を軽くポンと叩く蓮二さん。もうそれだけで舞い上がってしまいそうだった。確かに俺は酒は弱い。すぐにふわふわと楽しい気分になってしまう。でも今はそんな余裕はなかった。蓮二さんの前で気分良く酔っ払ってる場合じゃないでしょ。 「酔ってないよ。蓮二さんとまた会えて、一緒にいられて俺、嬉しくて照れ臭くて……それで赤くなってるだけだから……」  俺は蓮二さんの手に自分の手をそっと重ねてそう言った。一応宣言していた通り、俺は蓮二さんを口説くつもりで誘ってるんだ。今言える精一杯のアピールがこんな台詞でクソ恥ずいけど、それでも蓮二さんは「そっか、ありがと」と耳を赤くして言ってくれた。

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