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出会いと始まり⑤/距離

 蓮二さんのあの告白を聞いて、俺は俄然張り切って「好き」だと伝えた。  目の前にそびえる一つ目の壁はクリアした。それだけで十分俺にとっては嬉しいことだった。そもそも俺が蓮二さんの恋愛対象になり得るのか? というこの一つ目の壁が一番重要なところであって、そこがクリアになったわけだから、正直俺は無敵気分だった。  蓮二さんがゲイだったとはいえ男相手なら誰でもいいわけじゃない。好きになるタイプや好みは誰にでもある。俺は蓮二さんに好きになってもらえるよう、慎重にデートに誘った。強引にならないよう、毎日何度でも連絡をしたいのを堪えながら、それでも男同士でも「デート」っぽいことがしたくて映画やら公園、ショッピングなど休みを合わせ誘っていた。    映画の好みも違う、服の好みも違う…… 会って話して、一緒に行動していてわかることがたくさんあった。蓮二さんは、俺と趣味嗜好が違うからと言って否定なんかせず、楽しそうに興味を持ってくれる。嫌な顔もせずに寄り添ってくれる。知らないことを知ると、子どものように目を輝かせ感心し褒めてくれる。褒めてくれるのはきっと職業病かもしれない。もしかしたら俺のことを生徒の一人だとでも思ってるのかもしれない。大人びていて一見冷たそうな見かけによらず、可愛らしくお茶目な面もたくさんある蓮二さん。  俺は蓮二さんを知れば知るほど、どんどん好きな気持ちが溢れていった── 「智は……明日は早番なのか?」 「ん? 明日、ってか来週は一週間遅番だけど」 「そっか……」  蓮二さんとデートをするようになり、一年ほど経っただろうか。この日もいつものように蓮二さんと一日楽しく過ごしていた。  デートをするときは決まって二人の休みが同じ日曜日にしていた。仕事終わりだと時間も合わないし、夜だと飯を食って飲みに行くくらいしかできないから。昼間から二人で出かけて一緒に過ごし、最後に食事をして別れるのがここ最近のデートのパターン。この日も俺たちはいつも通り食事も済ませ、他愛のない話をしながら駅に向かって歩いていた。  そう、いつもと同じ、いつもの蓮二さんと俺だった。  実はデートを重ねるごとに、俺は蓮二さんとの距離が気になっていた。肩を並べて歩いていても、最初の頃よりも明らかに距離が近い。心の距離じゃなく、物理的に距離が近い。だから自然とお互いの手や腕が当たってしまう。わざとじゃないから不快にさせちゃいけないと、俺は慌てて距離をとり何でもない風を装った。本当は手を繋いだり腕を組んだりしてみたい。周りの目があって嫌かも知れないから、人通りのないところでこっそりそんな風にできればいいな、なんて思ったりもする。でも俺と蓮二さんはまだそういう関係じゃないから、日々の妄想だけに留めていた。 「……え?」 「そっか」と小さく返事をした蓮二さんは何を思ったのか俺の手をキュッと握ってきた。ついさっき、不意に触れてしまった手を俺は慌てて離したばかり。それなのに、待てと言わんばかりに俺の手を追い蓮二さんは軽くだけど握ってくれた。  

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