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出会いと始まり⑥/進展
「お、俺は明日は休みなんだ……」
「うん? そうだね。蓮二さんは月曜休みだったよね」
そんなのとうの昔に知っている。今更何を言ってるんだろうな? と、蓮二さんの顔を見た俺は一瞬にして心臓が跳ねた。
俺の手をキュッと握ったままの蓮二さんは少し泣きそうな顔をして俺のことを見つめている。帰路につくため駅に向かって歩いているたくさんの人達。俺たちは二人その場で立ち止まり、そんな道行く人たちの邪魔になっていた。
「もしよかったら……」
顔も上げずに、喧騒にかき消されそうなほどの小さな声でそう言いかけた蓮二さんが何を言いたいのか、俺は察してしまった。それでも信じられず、とりあえずこの場から歩き出そうと今度は俺が蓮二さんの手を引き一歩踏み出す。俺の手を掴んでいた蓮二さんの手はもう力無く、俺が掴んでいないと離れてしまいそうだった。
さっき言いかけたこと。手に汗かいて、嫌だっただろうにあんな人混みでわざわざ立ち止まり、それでも蓮二さんが俺に伝えようとしていたこと……
「まだ帰らないでもっと一緒にいる?」
「……ん」
先回りして俺が蓮二さんにそう聞いた。目を合わせてくれなかったけど、頷いてくれたことに興奮した。俺の盛大な勘違いじゃなければ、蓮二さんは自分から俺と朝まで一緒にいたいという意思表示をしてくれたんだ。
俺は蓮二さんに「好きだ」とは常に伝えていたけど、恋人になって欲しいとは言えていなかった。「好き」という言葉は一方的で、蓮二さんがどう思おうとそれは俺の気持ちでしかない。でも「恋人になって欲しい」なんて言ってしまい、万が一にでも否定されてしまったら、もうそれっきりになってしまう。それなら俺は友達として一番近い場所にいて、蓮二さんに俺の気持ちだけ知ってもらっていた方がよっぽどいいと思っていた。
この関係を壊したくなくて、この現状に妥協して満足してるフリをしていた俺に、蓮二さんが勇気を出してきっかけをくれたのだとわかった。
臆病になりすぎて俺、ちょっとかっこ悪い……
「ならどうする? どこかゆっくり飲める、雰囲気の良い店行く?」
それでも気が変わったり警戒などされないよう、俺は慎重に言葉を選び蓮二さんに聞いた。お互い様子を伺っているのか、歩くペースも周りよりだいぶ遅い。蓮二さんはチラチラと周りを気にしているみたいだけど、きっとここにいる赤の他人は俺たちの事など気にも留めていないだろう。
繋いでいた手をそっと離し、俺は蓮二さんの歩幅に合わせ並んで歩く。この関係が少し進展するかもしれないと、緊張とワクワクで心臓が煩かった。
でも、少しどころか一気に距離が縮まることになるとは、この時の俺は想像もしていなかった。
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