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始まりは突然に①/好きだ

 とあるラブホテルの一室。  手慣れた様子の蓮二さんに、俺はベッドの上に押し倒されていた。 「いや、待って……そうじゃない……」 「もう待てない……」 「え、ウソ……」  とりあえず頭の中がとっ散らかってしまってこの状況を理解するのに時間がかかる。否、俺にとってはこの上なくおいしい状況に変わりはないのだけど、欲情しきった顔の蓮二さんに見下ろされ、ときめいちゃってるのがもう意味不明だった。  遡ること少し前── 「ゆっくり…… 二人きりになれるところでもいいぞ」  人が行き交う通りの真ん中で、顔を上げ俺を見据えてそう言った蓮二さんの表情は今まで見たこともない雄の顔をしていた。「え?」と、動揺しかできない俺に構わず、蓮二さんは「早く行くぞ」とスタスタと歩いて行ってしまう。混乱しながらついて来た先は、駅前の通りから少しはずれにあるホテル街だった。  蓮二さんは迷うことなく奥にある一軒のホテルに入っていくから、慌てて俺もその後に続いた。 「待って、蓮二さん、ラブホって」 「ここなら男同士でも大丈夫だから」 「いや! そうじゃなくてさ、急にだったからびっくりするじゃん!」  そりゃ俺だって朝まで一緒に……なんてことなら、どこかにお泊まりかなって頭をよぎったよ? でもまだ付き合ってもいない友人関係なのに、それはちょっと飛躍しすぎじゃね? そんなガッついてないからね、って俺は遠慮したんだよ。せめてムードのあるバーにでも行って少し酒でも入れて、そしてあわよくば……ってイメージをしてたのにさ。それに性急だと思われたくないし、ましてやヤリたいだけなんて思われたくない。それなのに部屋に入った途端、蓮二さんはぐっと俺に顔を近付け「急に、じゃないだろ?」と意味ありげに笑った。  なんなのこの人。蓮二さんのこんな顔、俺は知らない。当たり前だけど、俺と同じ「男」の蓮二さんが、更に追い討ちをかけるように格好良い。もしかして、もしかしなくても、もうこの状況なら確信できる。俺は恐る恐る蓮二さんの顔を伺うように聞いてみた。 「……いいの?」 「今更かよ」 「だって……だって、もしかして蓮二さんも俺のこと……」 「ああ、好きだぞ? じゃなきゃこんな長いことデートなんてしない」  もちろん恋愛感情有りの「好き」だとちゃんと言ってくれた。俺は嬉しくて嬉しくて、情けないけどその場で泣いてしまった。 「段々と俺のことを知ってくれればそれでいいから、なんて言ってたけど、とっくに俺は智のことが好きだからな。焦ったいのはもう嫌だ」  蓮二さんに優しく抱きしめられ、俺は胸がいっぱいになった。手が触れただけでもドキッとして恥ずかしかったのに、今こうやって全身を抱きしめてもらっているのは現実だろうか。蓮二さんの温もりや心地よい匂いに、なんだか本当に夢見心地で俺は舞い上がってしまっていた。

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