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始まりは突然に③/昇格
俺と入れ違いにシャワーを浴びに行った蓮二さんを待っている間、雰囲気に流されないよう気合を入れ直し俺は形勢逆転を狙う。
思った通り蓮二さんはすぐにこちらに戻ってきた。受ける側は準備もあるからこういう時は時間がかかるのは知っている。でも蓮二さんはきっとそんな気は更々ないから、俺と一緒でさっさと済ませて戻ってきたのだろう。
「蓮二さん……」
俺はベッドの上で、蓮二さんに向かって両手を広げた。このまま俺の前にきたら今度は俺が押し倒してやろうとイメージする。緩んだホテルの寝衣の隙間に手を差し込み直接蓮二さんの肌に触れ、そのまま押さえつけながら今までのように事を進めればいいだけだ……
「あぁうん、でもやっぱ違うな……蓮二さん、ちょっといい?」
俺の目の前まできた蓮二さんの両手を捕まえ、俺は改まって瞳を見つめる。今まで俺がしてきた恋愛なんてお遊びみたいなものだ。感情なんてこれっぽっちもなかった。いや、そこまで言うほどじゃないけどさ、それでも今の蓮二さんを目の前にした俺はあの頃とは比べようがないほど緊張もしてるし歓喜に震えている。
だから「今までのように」なんて考えちゃダメなんだ。ずっと蓮二さんとの関係を大事にしてきたんだろ? ここのところはきちんとしないと、そう思って俺は蓮二さんに話しかけた。
「勢いでこんなところまで来ちゃって、えっと、もうお互いこんな……なんだけどさ。ちゃんと言ってなかったから、蓮二さん、ちょっと聞いて」
「ん? 何だよ、俺なら大丈夫だぞ? 智……好きだよ」
「えっ……あっ、だから……違くて、待って……」
蓮二さんは俺に両手を掴まれたままグッと俺の膝の上に乗り上げ、頬に顔を寄せながら俺のことを押し倒してくる。
わかったから! 蓮二さんの魅力は十分過ぎるほど体感したから!
今までこうやって何人の男を魅了してきたのだろう。俺でさえ蓮二さんに気圧され「もうどうにでもして……」なんて陥落しそうになる。さっきの気合いが嘘みたいに、呆気なく流されてしまいそうでちょっと怖い。
「ダメだよ……蓮二さん、イイ男すぎてヤバい」
「は? 何だそれ」
「お願いだから、エッチするのちょっと待って」
不服そうに口を尖らせた蓮二さんは「何だよ、どうした?」と俺の隣に腰を下ろす。そんな表情がまたまた意外で、俺は性懲りもなくキュンとしてしまった。
「智、緊張してる? 俺もドキドキしてるよ。だからゆっくりでいいから……優しくする」
「いや、そうじゃなくって、落ち着いて! ちょっと待ってね。ちゃんと言わせて」
「は?……落ち着くのは智の方じゃないのか?」
「俺は大丈夫!」
油断してるとあっという間に流されてしまいそう。この人本当に恐ろしい……
「あのさ、ここまで来て何なんだけどさ、蓮二さん……俺と付き合ってください!」
「ほんと、今更だな。うん、そのつもりだし、俺も是非そうしてほしい」
「じゃあ……本当に「恋人同士」ってことでいいんだよね?」
「だろうね」
蓮二さんが笑ってくれた。嬉しさが爆発する。
晴れて「友達」から「恋人」に昇格した瞬間だった──
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