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それぞれの「初めて」①/蓮二の場合
智に一目惚れだと言われたとき、一度だけ意を決して「俺も」と伝えた。
でも「蓮二さんたら俺を喜ばせる天才!」とか言われてしまい、結局は冗談だと笑われてしまった。
きっと……いや、俺の一目惚れが何もかもの全てのきっかけなのだと思う。
智は知らないかもしれないけど間違いなく最初に一目惚れをしたのは俺の方なのだから──
出逢った日からかれこれ一年。
智は俺に対し「好きだ」とアピールしながらも、ずっと親しい友人として接してくれていた。「好き」ということは、恋人として付き合い、接したいと思うんじゃないのか? と、俺は智の「好き」の先をいつも期待していた。それでも期待ばかりでなかなか自分の本心は伝えられない。今までまともに恋などしたこともなかったから、何もかも初めてのことで自分の内側を晒すことが怖かった。そんな俺でも、根気よくずっと好意を向けてもらえれば多少なりとも自信が付いた。
いつものデート。
一緒に一日を過ごした後、俺は勇気を出しいつもと違ったことをした。
さっと離された手を追い握る。人混みの中立ち止まり、もっと一緒にいたいと俺は初めて自分から智にアプローチをしようとした。もう我慢できなかったんだ。俺だって智のことが好きなんだ。
──本当は、泣きたくなるほど智が好き。
少し驚いた様子の智が可愛いと思った。俺の言いたいことを察してくれ、智の方から誘ってくれた。それが嬉しくて、もう俺は引き下がることなどできないと思い予め下調べしておいたホテルに向かった。
あの日以来の「二人きり」の空間に気が逸 る。余裕がないと思われたくなくて俺は精一杯背伸びをした。
今まで俺に向けてくれたたくさんの愛を今度は俺が智に返してやりたいと思う。「俺も好きだよ」と伝えたい。それでも口下手な俺はどうにか態度で分かってもらいたくて必死だった。
触れれば触れるほど、もっと智を感じたいと欲が出る。
智の記憶にはない、初めて会った「あの夜」が俺の奥底で燻っているのがわかる。俺の知らなかった自身の欲望を再び呼び起こされ、止まることなどできなかった。
思い詰めたように「俺に蓮二さんのことを抱かせてください」と智に言われた──
ずっと智が何かを言いたげだったのはこの事かと今頃になって気がついて、悪いことをしたと反省した。
俺に言わせればポジションなどどちらでもいい。まあ、正直言って俺が智を抱くイメージしかなかったのも事実だけど、智が喜ぶのなら俺は何だってよかった。
「ありがとう……俺、絶対蓮二さんに痛いことしないから。すごく優しくするから……安心して俺に委ねて。でもね、今日はしない。また次の時にね。今日はこうやって一晩一緒にいるだけでいいから」
そんな風に言われてしまえば、何もかも初心者な俺にとっては智の言葉通りに全て委ねられると安心した。
それでも嬉しくて舞い上がっていた俺は、その後も「今日はしない」と言っていた智を弄るだけ弄って大満足で眠りについた。
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