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それぞれの「初めて」②/期待
翌朝目が覚めた俺はハッとして、慌てて隣で眠る智を見る。目覚めた瞬間、あの日の悪夢が蘇って怖くなった。
また智の記憶が無かったらどうしようと不安でいると、目を開けた智に微笑まれた。
「蓮二さん……おはよ」
優しい笑顔で俺の頬に手を添え嬉しそうな智を見て、一気に幸福感が込み上げる。「おはよう」と返せば、お互い照れ臭そうに目を逸らした。
「なんか信じられない。蓮二さん、よく眠れた?」
「……ああ」
「そっか、よかった。俺、ドキドキしちゃって実はあんま寝られなかった」
智はヘラヘラと笑って「でも幸せだ」と嬉しそうにしている。俺の方こそこの現実が信じられなくて浮かれているというのに、こんな時でもなんでもない風を装ってしまうのは我ながら性格が捻くれてるな、とがっかりした。
「蓮二さんて寝顔もカッコいいのな。ずっと見てられる……」
「は? ずっと見てたのか?」
「うん、だって興奮しちゃって眠れないじゃん」
「いやいや、ほんとに寝てないの?」
「ん? ちょっとは寝たよ、多分……ねえ、そんなことより……」
楽観的な智の性格は可愛いし羨ましいとも思うけど、智は今日はこれから仕事があるというのに大丈夫なのかと俺は心配しかない。
「チェックアウトの時間までまだあるから、ギリギリまで寝とけ。今日は遅番なんだろ?」
「え、いいよぉ」
「ダメ。俺ももう少し寝たいし、な?」
イチャイチャしたいと嘆く智を宥めて、俺はもう一度ベッドに潜る。
こうやって好きな人に触れ横になる、こんな些細なことでも智の言う通り「幸せ」だと感じ嬉しくなる。一目惚れしたあの日からここまでの関係になるまで、こんなに日を要するとは思ってなかった俺は改めて幸せを噛みしめた。
正式に智と付き合うことになって半月──
結局付き合う前も今も、何ら目に見えるような変化はない。時間が合えば夕食を共にし、少し酒を飲み笑顔で別れる。そう、今時すこぶる健全で清い交際。俺ばかりが毎日でも会いたい、顔を見たい、体に触れたい……と智を欲しているようで恥ずかしくなるくらい。
「また次の時に──」そう言っていたのは一体どういう意味だったのだろう。一緒に朝を迎えたあの日のことは何だったのだろう? 幻だったのかと思うくらい、あれから何も進展が無いことに俺は戸惑いしかなかった。
初めてホテルに泊まった日から次に会ったのはすぐだった。だからいくらなんでも性急すぎるだろうし、ガッついていると思われたくなかったから俺からは何も言わなかった。智もそういう雰囲気に見えなかったし、まあいいか、といつも通りに俺も接した。
最初に泊まったホテルでもいいし、いつ俺の部屋に来ることになっても大丈夫なように常にきれいに整理整頓もしてある。それなのに、あれから何度も会う機会があったのに智からの誘いは一向になく、俺の自信がどんどん消えていくのがわかった。
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