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それぞれの「初めて」③/智の場合
完全に言い出すタイミングを見失っていた。
あぁセックスしたい──
格好つけて「次の時に」なんて言ったものの、すぐ次のデートでいきなりホテルじゃちょっとガッつきすぎて引かれるかな? なんて様子見してしまった。蓮二さんも蓮二さんで、ちっともそういった雰囲気にならない。でも、こういうのは「受け身」になると決心してくれた蓮二さんのタイミングでお誘いした方がいいのだろう。
俺だって大人な男だ。もう俺と蓮二さんは恋人同士なのだから、今更焦らなくても大丈夫。俺だってクールにスマートにいかないとな……って、無理して余裕こいていたらすっかりタイミングが分からなくなってしまった。俺のバカ。
結局あれから今日で三回目のデートを迎えていた。蓮二さんも何も言ってこないしどうしよう。もう大丈夫かな? きっと蓮二さんだって心の準備があるだろうし、やっぱり向こうから言ってくるまで待ったほうがいいのかな? それとも俺に抱かれるのが嫌になってあえて言わないでいるのかな? だとしたらどうしよう! 格好つけてないでさっさとヤっちゃえばよかったじゃん……いや違う、ダメだよ、そうじゃない。
今まで誰と付き合ってもこんな風に相手のことを思って考えたり悩んだりなんてしたことがなかった。自分のしたいように、相手の思うままに、深く考えないで付き合ったり別れたりを繰り返していた。でも蓮二さん相手にそんないい加減なことはしたくなかった。したくないというよりできない、そんないい加減なことをして嫌われたくないっていうのが大きかった。だから変に考えすぎちゃって訳が分からなくなってしまった。
俺が悶々としていたら、それを察したのか蓮二さんに変な顔をされてしまった。
「なあ、もしかして智……後悔してるか?」
だいぶ酒も入ったところで蓮二さんに言われた。俺と違って蓮二さんは酒に酔って醜態を晒したりしない。いたって真面目な顔をして俺のことを覗き込んでくる。
「へ? 後悔? って何に?」
真剣な顔の蓮二さんもいい男だな、なんて酔った頭でボヤッと考えながら、本気で意味が分からなく俺は聞き返してしまった。
俺の人生、それほど後悔するようなこともなかったな。でも蓮二さんと出会ってからは不甲斐ない自分にイラついたり後悔ばっかしてるかも……てかそうだよ、今まさに後悔してんじゃん! 蓮二さんをさっさと抱いちゃえばよかったって。訳わからなくなってる俺、バカタレだなって情けなくてしょんぼりしてるじゃん。
「何にって、そりゃ俺と付き合うってことにさ……」
「え……? えっ!?」
消え入りそうな静かな声で、蓮二さんはそう言った。俯いちゃってるけどはっきり聞こえた。
は? 俺と付き合うことに後悔? 待って、何でそうなるの?
俺がぼやぼや悶々してる間に、蓮二さんは何か盛大に勘違いをしてしまったらしい。
あぁ本当に俺ったら不甲斐ない!
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