19 / 59
それぞれの「初めて」④/初めてみたいに…
「なんで? そんなわけないじゃん! 俺がどんだけ蓮二さんのこと好きかわかってる? 後悔なんかしてないし!」
「だから、声デカイって」
びっくりして酔いが醒めたじゃん。蓮二さんは俺の声が大きいって怒るけど、そりゃ声だって大きくもなるわ。びっくりだよ。俺が蓮二さんと付き合って後悔なんてするわけがない。
「やっと蓮二さんと付き合えるって超嬉しかったのにさ、なんでそんな風に思うんだよ」
「いやだって……あれらから全然……智何も言ってこないじゃんか……次の時に、っていつだよ」
言いにくかったのか、しどろもどろになりながら「いつまで待たせるんだ」と怒った顔をして俺を見る蓮二さんは、ちょっと泣きそうな顔に見えた。俺がもたもたしていたせいで変な誤解をさせてしまったのだと更に後悔していたたまれなくなった。
「ごめん……蓮二さんの都合もあるかなって、俺、遠慮してた。マジで全然後悔なんてしてないかんね。誤解させちゃってごめんね」
誠心誠意「ごめん」の気持ちをわかって欲しく、思わず蓮二さんの手を握る。ちょっと驚いた顔をしたけど、蓮二さんは俺の手を払うことなくじっとしていた。俺の汗なんだか蓮二さんの汗なんだか、お互いの手のひら汗びっしょでちょっとおかしい。蓮二さんが俺と同じ思いでいてくれてたのがわかった途端、俺ってば調子いいから黙っていられなかった。だって嬉しいじゃん。密かに俺に欲情してくれてたってことだろ?
「ねえ、蓮二さん、もう大丈夫?」
「ああ……俺の部屋、行く?」
言葉足らずで何が「大丈夫?」なんだか我ながらアホだなって思うけど、ちゃんと蓮二さんには伝わってたから安心した。そんなことより恥ずかしがっているのか蓮二さんの表情が可愛すぎて俺、この時点でどうにかなっちゃいそうだった。
初めて会った時以来の蓮二さんの部屋──
部屋に入ってすぐ、堪らなくなった俺は蓮二さんを捕まえる。ドキドキして抱きしめた腕が震えてるのがわかってどんどん緊張が増していく。照れ臭くて蓮二さんの顔がまともに見れない。変な汗までかいてくるしびっくりするくらい情けない。
「俺、初めてするみたいに緊張してる……恥ずかしい」
「……俺も」
クスッと笑って蓮二さんは俺にキスをしてくれた。ギュッと抱き合いながら、もたもたと部屋に移動しぎこちなくベッドに腰掛け、改めて蓮二さんの顔を見る。本当に初めてみたいにどうしたらいいのかわからなかった。セックスこそしなかったけど、裸でお互いを弄り合ったこともあるのに、何でこんなにガチガチに緊張してるんだよ俺。笑っちゃう。
相手が女でも男でも、いつもなら俺がリードして、いい雰囲気に持っていくのに、蓮二さんを前にしたら冗談ぬきに緊張で手が震える。こんなことは初めてだった。蓮二さんも俺の緊張が移ってしまっているのか黙ったままで、俺の出方を伺っているように見えた。
「ほんと、ごめんね。俺がこんなんじゃ蓮二さん嫌だよね?」
「ううん、大丈夫。シャワー行ってくるから……それに俺もドキドキしてるよ」
バスルームに向かう蓮二さんの後ろ姿を見ながら、今からあの人を抱けるんだと深呼吸する。蓮二さんだって受ける側はきっと俺が初めてなんだ。いつものように……相手に気持ち良くなってもらうことだけを考えて、俺は気持ちを切り替え蓮二さんを待った。
ともだちにシェアしよう!