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それぞれの「初めて」⑧/そして現在……

「蓮二さん、最初俺のこと抱こうとしてたよね。やっぱり今でも俺のこと「抱きたい」って思うことある?」 「ん? 智が良ければ抱いてやるぞ?」 「あっそれは遠慮しますわ」 「……なんだよ、なら聞くな」  相変わらずツンとすました顔のまま蓮二さんはそう言って、また手元の本に視線を落とした。  俺たちが付き合いを始めて三年目。  もうお互いが当たり前に側にいる日常に慣れて久しい──    今日は天気も悪いし、せっかくの休みだけどお互い家でゆっくりしようと決めていた。  蓮二さんは朝からリビングで読書に耽っていて一人の時間を満喫している。俺はというと食料の買い出しリストを作ったり、部屋の掃除を……主に蓮二さんの散らかった部屋の掃除をしたり、ため込んだ洗濯物を……これも蓮二さんのがほとんどだけど、乾燥にかけたり、昼食に焼きそばでも作ろうかと下ごしらえ始めたり。あれ? 俺主婦かな? ってくらい家のことで動き回っていた。  一息ついて、ソファーに座り静かに本を読む蓮二さんの細い首筋を眺めていたらふと出会った頃を思い出し、何となく気になったから聞いてみた。  俺と会う前の蓮二さんはどんな恋愛をしていたのだろう。今でも十分すぎるくらいのいい男だけど、出会った当初も凄く男前で俺はタジタジだったっけ……  時折思い出しては蓮二さんに聞いていたこと──  今でこそ俺の下で可愛く蕩けた表情を見せてくれるけど、きっと過去の恋人たちはそんな蓮二さんの「可愛い」部分やギャップは知らないだろう。過去に嫉妬しそうになる度、蓮二さんにとっての初めては俺なのだ、と俺は自分を励ましていた。 「またその話かよ。智の方がこういうこと慣れてると思ったからだよ」  俺が聞くたび、ポジションなんてどちらでもよかったと蓮二さんはつまらなそうにそう言うんだ。俺は蓮二さんが俺に合わせて我慢してくれているんじゃないかと心配になってつい聞いてしまうんだけど、返事はいつも一貫しているから本当のところは聞けていない。 「智みたいな経験豊富で手練れなら安心して身を任せられるし。それに智は気持ちが良ければなんだっていいだろ?」 「はぁ? よく言うよ。蓮二さんモテ男なの知ってるし! でも俺のことをいつも優先してくれてありがとね。蓮二さん、やっぱ大人だよね。懐の大きさが俺とは比べ物にならないや。好きだよ、蓮二さん」  蓮二さんは気にしてないからいいのだと簡単に言う。俺も単純だからそんなふうに言われれば「そっか」と納得してしまうけど、きっと思うところもたくさんあっただろうな。そう考えると俺は頭が上がらない。そしてこんないい男が俺のかけがえのないパートナーなんだと思うとやっぱり嬉しくて幸せな気分になるんだ。 「何だよそれ、相変わらず調子いいな智は……っておい、何してる? 今日はもうしないぞ! おいっ! 手を入れてくるな!」 「ううん、蓮二さん、したくなっちゃった。いいでしょ? 明日休みなんだし」 「俺は休みだけど智は仕事だろ? だめ、てかまだ昼間……あっ、やめ……んんっ……」 「そうだね、まだ明るいや。朝までたっぷり時間あるじゃん」 「朝までって…… あっ、や……あっ」  俺は蓮二さんから本を取り上げると、そのままソファに押さえつける。  嫌がるくせに、少し強引なのも嫌いじゃないのも俺はちゃんと知っている。 「蓮二さん、ずっとずっと俺と一緒にいてね……」  全身性感帯みたいな蓮二さんの耳元でそっと囁く。頬を紅潮させた蓮二さんは素っ気無く「うん」と返事をし、いつもの優しいキスをくれた──

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