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発端②/ヒートアップ
俺が浮気しているのかも……と疑われたことは心外だけど、それでもその時の蓮二さんのことを思ったらほんとごめんとしか言いようがないし、ちゃんと納得のいく説明をしないといけないと思って俺は蓮二さんを宥めながら話し始めた。
二人でやった引越しの後日、蓮二さんのいない時に美典に手伝ってもらい荷物をこの家に運び込んだこと。今日美典が来たのは遊びに行くために始発電車に乗るのにこの家が駅から近いから、と利用されたこと。早々に俺の職場に来て「行くところがない」と言うから、すぐに追いかけるつもりで家の鍵を渡したこと。そのことをすっかり忘れて飲みに行ってしまったこと……
言いながら、ほんと俺ってばいい加減な奴だとうんざりする。蓮二さんも怖い顔をしたまま呆れたようにため息を吐いた。
「いや、だから……妹さんは智の家だと思ってんのに見ず知らずの俺が帰ってきて驚いたんじゃないか? 全然そんな風には見えなかったけどさ」
「あぁ、美典は俺と蓮二さんが同棲してるって知ってるし、蓮二さんの写メも見せたことあるから顔もわかってるし、まあ驚かねえよ」
「……は?」
黙ってしまった蓮二さんの顔がみるみる赤くなる。でもこれはいつもの照れている顔じゃなくて明らかに怒りの表情。
「蓮二さん?」
こんな顔、見たことがなかったからちょっと戸惑う。恐る恐る声をかけたらすごい剣幕で捲し立てられてしまった。
「どういうことだよ! 同棲していることを知ってる? 写真? は? ルームシェアじゃなくて同棲って……言い方! まるで俺たちが恋人同士みたいに聞こえるだろうが!」
「え? 恋人同士でしょ?」
「馬鹿か! 妹さんに俺のことをなんて言ったんだ? まさか……」
「え……もちろん俺の恋人、って……」
いや、なんで俺、こんなに怒られてるのか意味わかんねえし。俺たち付き合ってるんだろ? 恋人同士じゃねえの? 俺が本当のことを言ったから怒ってる? え? なんで?
俺は美典とは、と言うか家族とは仲がいい方だと思う。何でもかんでも明け透けに話すわけじゃないけど、同棲している蓮二さんの存在は美典も母ちゃんも知っている。別に自ら進んで話したわけじゃない。聞かれたから答えただけ。兄貴二人は実家を出てるし、長いこと会ってないから話してないけど、きっと近況報告をする機会があれば俺はなにも隠すことなく話すと思う。
蓮二さんにとってみたらそれは信じ難いことらしい。
長く付き合ってきたけどお互いの家族のことなんかほとんど話をしたことがなかったから、俺だって蓮二さんが一人っ子だということしか知らない。それだって多分何かの会話でチラッとそんなことを言っていた気がする、という程度の情報。聞かれていないし今まで話題にも上がらなかったから話していない。だからそれはお互い様だと思うのだけど……
蓮二さんがこれだけ怒っているのは自身のセクシュアリティを俺以外に誰にも話していないから。なんでもオープンにしてきた俺の気がしれないと怒っている。あまりの剣幕に、俺の方こそなんでここまで言われなきゃならないのか理解し難いし、俺との交際がそんなに恥なことなのかと、全否定されているようで苛ついてくる。それでも今回のことは全面的に俺が悪いのだから、蓮二さんの言い分を大人しく聞いていた。
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