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発端③/鬱憤

「なんでこんなに大事なことを俺に黙ってるんだよ!」 「いや、それそんなに大事なこと? まあ美典が来ることをちゃんと言ってなかったのは悪いと思うけどさ」 「そこじゃねえだろ!」  珍しく興奮している蓮二さんは俺の発言に苛つくのかどんどんヒートアップしていくようだった。俺も触発されて段々冷静さを欠いていくのがわかる。 「ちょっと蓮二さん怒りすぎじゃね? 俺だって美典だって別に偏見とかねえよ? そんな怒ることねえじゃんか。俺らが付き合ってんの、隠す必要ねえだろ。俺との交際はそんなに恥ずかしいことなのかよ?」 「そういうことを言ってるんじゃねえよ! そもそもこうなったのだって智が俺のことを避けて雰囲気悪くしてたからじゃねえか!」 「なんだよそれ」  話が逸れた──  いやほんと、蓮二さんがここまで感情的に怒ってるのなんて初めてでちょっとびっくりなんだけどさ、それでも俺だって思うところはたくさんあるわけで…… 「智が作ってくれた弁当を無駄にしたことだって悪いと思ってるし、でもお互い仕事をしてたらわかるだろ? 人付き合いだって大事だし断れないこともある……」  それこそ「そこじゃねえだろ」って話だ。  弁当のことはきっかけでしかない。常日頃のお互いの行動。俺も蓮二さんもお互いが仕事の忙しさで苛ついてたんじゃねえのかな、ってことだ。あの時の弁当云々より以前から、俺たちは少しすれ違い気味になっていたはず。俺はそのことを蓮二さんと話がしたかったんだ。 「そもそも俺が何かしたか? 最近の智は苛々しているように見えたし感じ悪かったじゃないか!」  蓮二さんはさっきから俺を責める事ばかり言ってくる。美典のことから論点が逸れ、俺の日頃の態度のことを言い始めた蓮二さんは、もう夢中で溜まりに溜まった鬱憤を吐き出したいようにも見えた。普段口数の少ない蓮二さんは言いたい事をあまり言わないから、俺が我慢させてしまってたのかな…… 悪いことしちゃったな、なんて一瞬思ったけど、でも蓮二さんって言う時は遠慮なくズバッと言うよな? と思い直した。  そうだよ、この人、ちゃんと自分の主張は通すじゃん。申し訳ない気持ちになって損した。  そりゃ俺は今まで蓮二さんにこれといって不満なんてなかったよ。だって些細なことなんかは不満のうちに入らねえだろ? どうしたって俺は蓮二さんのことが好きだから。蓮二さんのいいところも悪いところも全部含めて大好きなのだから。  それでも、ちょっとこれはあんまりじゃねえの? 俺だって神様仏様じゃないんだからさ、イラつきもするし怒りもする。 「蓮二さん、いい加減にしろよ! さっきからなんなの?! 俺ばっか悪いみたいな言い方して自分のこと棚に上げて! ちょっと冷静になれよ!」 「お……俺は至って冷静だ!」  真っ赤な顔して「冷静だ!」なんて笑っちゃう。いやいや、それは無理があるだろ。蓮二さんと比べたら俺の方が幾分落ち着いている。それでも腹が立つのには変わらないから、俺はいつもよりちょっと強い口調で蓮二さんを責めた。    俺だって言うときは言う。  蓮二さんも「遠慮はいらない」「素直な智が好きだ」と、付き合うとき俺に言ってくれたよな?

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