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大喧嘩勃発①/爆発
俺が珍しく強い口調で言ったのが意外だったらしく、急に蓮二さんはおどおどし始め口数が少なくなった。俺だっていつまでも罵られてたんじゃ怒りたくもなる。
これで少しは冷静になってくれれば、と思ったのも束の間、蓮二さんはギュッと口を結んで事もあろうに俺に向かって手に持っていた鞄を投げつけた。
「は? なにすんだよ! 危ねえな!」
「俺は! 冷静だ!」
ちょっとびっくり。いやいや、物に当たるなよって感じだけど、その態度が子どもっぽく見え「可愛いな」なんて思ってしまった。でももうここまできたら俺も含め冷静に話し合いなんて無理だと悟る。可愛いなんて思ったのなんて一瞬だし、やっぱりムカつくのには変わりない。
「なんなの? 蓮二さん、俺にばっかりそうやって甘えてんなよ」
「どういう意味だよ! 甘えてなんかねえよ!」
「甘えてるだろ! そうやって勝手な事ばっか言って、俺のせいにばっかして、なんでも許されると思ってんだろうが!」
口からぽろっと出てしまった言葉はどんどん溢れて止まらない。そんなこと思ってなくても、きっと心の奥底で感じていたことなんだと思うと我ながら悲しくなってくる。冷静だったはずが、言葉を発すれば発するほどカッと熱くなってしまう。
多分甘えているのは俺の方だ。わかっているけど物足りないんだ。
俺はもっと目に見える蓮二さんからの愛情を欲している──
「蓮二さんだって少しは俺の気持ちになってみろ。つっけんどんな態度でいたって俺のことを構わなくたって、何をしたって俺が蓮二さんのことを好きでい続けると思ってね? どんな態度でも智なら大丈夫とか思ってねえ?」
「そ、そんなことない……」
「俺のこと大切に思ってねえだろ。なんなら家事してくれる便利なやつだとでも思ってるだろ」
「そんなわけねえだろ!」
蓮二さんがそんな風に思ってるなんて絶対にない。わかってる。でも冷静さをなくした俺は止められなかった。
「塾のガキとか保護者とかにさ、何あの顔! 俺、あんな人の良さそうな蓮二さん見たことねえよ。俺にはそんな笑顔絶対に見せねえじゃん」
「おい! 子どもらのことをガキって言うな! あんな顔って、そんなのよそ行きの顔に決まってるだろ。何そんなに苛ついてるんだ?」
「俺は苛ついてなんかねえよ! そういうところだっつってんの!」
わかってる。あれは単なる営業スマイルってことくらい。蓮二さんはああやって「いい先生」を演じて仕事に向きあってるんだってちゃんと知ってる。それでも俺はそんなものにもヤキモチを妬いてしまう。
俺の剣幕に圧倒されたのか、蓮二さんは俺とは逆にだいぶ落ち着いたようだった。
「智の方こそ何言ってんだ。少しは落ち着けよ!」
「はぁ? 蓮二さんこそ……なんなんだよ! ああ! もう!」
いやもうなんだか、どうでもよくなってきた。
俺の悪い癖だ。蓮二さんと付き合ってからはちゃんとしようって思ってたんだけどな。問題が起こるとすぐに面倒になってしまう。
こんなに好きなのに……
話が通じない蓮二さんに、本気で顔を見るのも嫌だと思ってしまった。
そう、俺はこの場から逃げたくなったんだ。
「ほんともういいよ! 美典のことは悪かった……もういい。蓮二さん、勝手にして。俺、疲れた……」
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