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大喧嘩勃発③/突然の来訪者
仕事後、慎太郎と食事に行くことになってしまった。さりげなく先に帰宅して逃れようとしていたのに、まんまと行動を読まれて捕まった。まぁ、相談というか話を聞いてもらっていた手前、ちゃんとその後の経過報告はしたほうがいいのか、とは思う。しょうがないから俺は覚悟を決め、慎太郎と二人であの日行ったバルに向かった。
「あ……のさ、この間のあれ、浮気相手じゃなくて兄妹だったんだ」
「あ、そうなんすか? なら良かったっすね。え? じゃあなんで滝島さんそんなボロボロなんですか? 別れたんじゃないなら喧嘩でもした?」
「ボロボロって…… うん、まあそんなとこ、かな」
チクチクと嫌なことを言ってくる慎太郎は無視するとして、俺自身、別に変化はないと思っていたのに、側から見たらどうやら酷い有様らしい。興味津々な慎太郎の顔を見たらもうこれ以上話すのが嫌になってしまった。話題を変えたい。
「そんなことより、そういえば例の彼女の件はどうなったんだ? あれからいい報告をもらってないが」
「もう、そこ! 言わないでくださいよ……なんかね、いい感じかと思ってたの俺だけだったみたい。笑えねぇ」
連日のように慎太郎に昼を付き合わされていた時、仕事の相談とともに恋愛相談も聞いていた。あれから何も言ってこないと思ったら、どうやらうまくいかなかったらしい。
「俺のことはいいんです。今は滝島さんのこと! まあ弁当作ってもらえてないのわかってたから喧嘩でもしたのかなぁ、なんて薄々思ってましたけど」
なんで人は他人の不幸話が好きなのだろう。「なんでも言ってください」と相談に乗る体で話す慎太郎はいかにも楽しげに見え、腹立たしく感じた。
「まあ同棲してるんなら嫌でも毎日顔合わすんだからさ、意地張ってないでサクッと謝って許して貰えばまた弁当作ってもらえるでしょ」
「簡単に言う……」
慎太郎は俺のやつれ具合を見て食生活も心配してくれているらしい。これで恋人が出て行ったなんて言ったら更にうるさそうだから適当に相槌打って聞き流した。
慎太郎は最近の女はどうとか、こういう男は嫌がられるとか、自論をベラベラと一人喋っている。少し酒も入っているからか、俺の適当な返事にも疑問に思うことなく機嫌よく話し続けた。
「今から滝島さんの家に行って、俺が彼女さんに文句言ってやる」
慎太郎は調子に乗って、店を出た後も帰ろうとしない。本気で俺の家に行き文句を言いたそうで本当に困る。来てもらったところで誰もいないのだから意味がない。
「気持ちはありがたいけど、慎太郎? お前ちょっと飲み過ぎだぞ? ちゃんと帰れよ」
普段は見た目によらず真面目で若手らしく一生懸命な好青年だ。最近こうやって個人的な付き合いをしているせいか、ちょっと打ち解け本性を晒し始めたってところか……でも慕ってくれるのは悪い気はしないし嫌いじゃない。それでも人付き合いの苦手な俺は、仕事の延長みたいにいつまでも自分を演じなければならないのが辛かった。
「あっれぇ? 蓮二さんじゃん! こんなところで何やってんの? 今から帰り? ちょうど良かった! 一緒に帰ろっ」
突然俺たちの背後から素っ頓狂な声が聞こえドキッとする。もちろん振り返らずとも声ですぐに美典だと分かった。ニコニコ顔の美典が「あ、どもども」なんて適当な挨拶を慎太郎にしている。慎太郎は先ほどまでの勢いはどこへやら、ワタワタと一緒になって「あ、どもっ」なんて言っていて、ちょっと笑ってしまった。
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