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大喧嘩勃発⑤/智の居場所

 美典は一頻り部屋を片付けると、今度は「お腹すいた」と言いながら持参していた袋からカップ麺やら惣菜やらを取り出し、テーブルに並べ始めた。 「冷蔵庫、やっぱりなんも入ってなかったね。買って来て良かったわ。蓮二さんも食べる?」 「あ、俺は済ませて来たからいいや」 「そ? なら余ったやつは次の日にでも食べなね。冷蔵庫入れておくから」  あれやこれや食べ物を並べる姿を見て、智と出会ったときの朝を思い出す。智もこうやって俺と一緒に食べられればと、沢山買ってくれたっけ…… 気遣いのできる優しい面を見て、やっぱりよく似た兄妹だな、と思わず頬が緩んだ。 「そっか、あ! さっきの店? なんかお洒落そうな店だったよね。美味しかった? アタシも今度連れてってよ」 「あ、ああ……」 「やったね! デートだ」 「いやいやいや……」  一人もぐもぐと食べ、お喋りも止まらない美典に今日ここに来た理由を聞いてみる。美典は一瞬キョトンとし、思い出したかのように「そうそう!」と大きな声を出した。  いや、目的忘れてたのかよ。自由だな…… 「ねえ、智、ちゃんとここに帰ってる?」 「……いや。しばらく帰って来てないな」  出て行ってしまったなんて、情けなくて言うのが嫌だった。  大袈裟にも見えるくらいのお大きなため息を吐きながら「やっぱり!」と美典は言い、ストローで一気に野菜ジュースを流し込む。 「なんかさぁ、毎日仕事から帰ると家にいるからさ、なんなの? ってちょっと迷惑してるんだよね」 「……そっか」  空になったパックをゴミ箱に放りながら美典は急に真面目な顔で話し出した。智の居場所が実家だとわかり俺は少しホッとする。 「家出でもして来たの? って冗談で聞いても、いや、帰ってるよ、なんてしれっと嘘ばっか言ってるしさ。どう考えたってずっと家にいるんだよ。あ、仕事はちゃんと行ってるよ。でも真っ直ぐうちに帰ってくんの。ママも何も言わないし、智は別にいつも通りだし、はぁ? なんで? って聞いたってヘラヘラしてなんか誤魔化されるしさ。アタシだけ気になっちゃってムカつくんだよね」  迷惑してるなんて言いながらも、こうやって兄を気にかけここまでやって来るなんて、優しいんだな、と思う。 「兄妹仲がいいんだな」 「は? なんでそうなる? 別に仲良いわけじゃないし」 「え、でも靴だってお揃いだし、智のこと、気にかけてるじゃん」  自分で言いながら、そんな細かいことをいつまでも覚えていて口にしてしまうなんて、よっぽど気にしてるんだと我ながら心の小ささに笑えてくる。揃いの靴はたまたま近所の靴屋でセールをしていて、お互い意図せず同じになってしまったらしい。「別におそろでも嫌じゃないし」と笑う美典に「よくそんなところに気付いたね」と感心されてしまった。 「ねえ、ほんとに喧嘩……でもした? それってさ、アタシのせいじゃね?」  あの時は気が動転してしまい、ことの発端は美典や普段の智の態度だと思っていた。でも智にはっきり言われ目が覚めた。喧嘩になってしまったのは誰のせいでもない。智を怒らせ出て行かせたのは紛れもなく俺自身のせいだった。

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