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言いたいこと、伝えたいこと③/それぞれの思い
ソファで二人、身を寄せ合って笑い合う。さっきまで泣いてたのに、俺は蓮二さんの「智、好きだよ」「愛してる」のセリフを何度も聞かされ、大いに照れる。こんなこと滅多にないし、きっと今だけでこれっきりなんだろうけど、ちょっとふざけて俗に言うイチャイチャを地で行くような蓮二さんに俺は嬉し恥ずかしマックスで「もうやめて」と懇願していた。
変に意地を張ってしまったけど、言いたいことがちゃんと伝わって良かったと思う。俺の方こそ蓮二さんがいなかったらきっと生きていけない。ずっと側にいてほしいから、見限られたくないから、蓮二さんも言いたいことがあるのなら遠慮しないで言ってほしいと思った。
「ねえ、蓮二さんはさ、俺に対してもう思うことない? 俺ばっかり不満たらたら言っちゃってさ、なんか申し訳ない……」
「そんなことねえよ。うーん、言いたいこと……俺はいつも言葉が足らずに智に嫌な思いさせてたからな。これからは思ったことはちゃんと伝えるようにするよ。愛情表現、な。あ、でも知ってもらいたいことはうん、あるかな……」
そう言って蓮二さんは自分が「ゲイ」なのだと公言するのはやっぱり抵抗があり、隠したいことなのだと俺に言った。理解し、それも自然なことだとわかってくれる人ばかりではないから、虐げられたり好奇の目で見られるかもしれない。もしかしたら身近な人の心を傷つけてしまうかもしれない。そんな思いがどうしても拭えなくてやっぱり怖いのだと蓮二さんは言う。身内にすらこういうことは言ってない。言う必要もないと思っているし、付き合う前の俺に対してもそれを言うのは勇気がいったのだと改めて教えてくれた。
俺はそんな蓮二さんの気持ちを傷つけてしまったことを素直に謝った。なにも考えず、当たり前に美典や母親に大好きな「恋人」ができたことを話してしまった。俺が「些細なこと」だと思っていたことが蓮二さんにとっては「大事なこと」で、とてもデリケートなことだったのだと思い知らされ、自分の配慮のなさを痛感した。人それぞれ考え方、感じ方は違うんだ。
「でもさ、美典ちゃんと話して良かったと思う。俺さ、普通にここで智と愛し合って同棲してるんだってこと、なんの躊躇いもなく話をしてたと思うんだよね」
「美典、図々しくて不躾だったろ? なんかごめんね」
「いや、全然。話しやすくて良かった。それに智に似て素直でいい子だと思うよ」
蓮二さんは嬉しそうにそう言ってくれた。俺もなんだか嬉しいけど、でも「愛し合って」なんて蓮二さんが言うからエッチなことも想像しちゃって、俺ってばこんな時に何考えてんだってちょっと焦った。蓮二さんは純粋に、第三者に男の恋人と同棲しているということを自然に話せて嬉しいってことを言っているのに。
美典にはひたすら俺の悪口を蓮二さんに吹き込んでおいたなんて言われたけど、本当は美典と二人で何を話していたんだろう、と気になってしまってしょうがなかった。
「あ! そうだ! 俺、大事なこと聞くの忘れてたじゃん」
美典のことを考えてたら俺が一番気になっていたことを思い出した。なんか色々といっぱいいっぱいで忘れてた。俺が美典からの連絡で真っ先に帰ってきた理由。蓮二さんの生活が荒れているってのはもちろんそれも心配だったけど、どうしても聞き捨てならないことが一つあったんだっけ。
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