48 / 59

親しき中にも礼儀有り①/蓮二と美典

 あれから何度か美典とはメッセージのやりとりをしている。  今では要件と言うほどの内容ではなく他愛のない世間話のようなことばかりだけど、最初は俺と智の大喧嘩のその後を気にした内容ばかりだった。美典のせいではないといくら伝えても、やっぱり自分のせいなのでは、といつまでも気にしていた。そんな美典に申し訳ない気持ちになりながら、俺は仲直りのお礼も兼ねて「今度連れて行って」と言っていたあのバルに美典を誘った。  美典と二人で食事をする。  智と違ってそこそこ酒は飲めるようで、顔色ひとつ変えずに最初から同じテンションで喋り続けている。美典が一人で楽しそうに喋ってくれているおかげで、口下手な俺は気楽に楽しく飲むことができた。 「蓮二さん、料理もろくにできないの?」 「やったことがない」  美典は智が出て行った後のあの部屋の状態を見て真面目に俺のことを心配してくれたらしく、色々聞かれた。別に料理ができなくても掃除ができなくても、今時死ぬようなことはない。それを言ったら「そういうことじゃないでしょ」とムッとされてしまい俺は何も言い返せなかった。まあ確かにちょっと屁理屈っぽくなってしまった自覚はある。そう、何でもできることに越したことはない。 「ちょっと思ったけどさ、それじゃあダメだよ。まあ蓮二さんにベタ惚れな智なら何でもやってくれそうだけどさ、少しは自分でもやらないと」  なんでこんなことで俺は美典に怒られているのだろう。内心余計なお世話だと思いがらも、智との喧嘩で少し反省をしていた俺は美典の言うことも一理あるな、と大きく頷く。話を聞いていると意外にも美典は料理は人並みにできるようだった。まあ、智のレベルがあれだからわからないでもないけど、人は見かけによらないとはこういうことを言うのだな、と変に感心してしまった。 「うちはさ、パパが単身赴任でずっといないし、ママも働いてて家事大変じゃん? 誰かがご飯作っておけば帰ってすぐに食べられるし家事も捗るでしょ? 一緒に住んでるんだもん協力しなくちゃ。だから智も料理は慣れてるから上手だと思うよ」 「うん、弁当も作ってくれる」 「マジか! それはそれは……やばいね、愛だわそりゃ」  聞けば子どもの頃から母親の手伝いをしながら料理に慣れていったらしい。俺なんか子どもの頃はなんでもやってもらってばかりだったし自分から家事の手伝いをしようなんて思いもしなかった。 「美典ちゃんも智も、偉いんだな」 「なにそれ、褒めてるの? ふふ、ありがと」    美典と話をしながら、俺は智に何でもかんでもやらせてしまっていたのだと改めて実感し、よくぞ今まで嫌な顔もせずに俺のために料理をしたり掃除をしたり尽くしてくれたとありがたく思う。 「こんなだから愛想尽かされちまうんだよな……嫌われないように俺もちゃんとしないとな」 「へ? それは絶対ないから大丈夫だし」  美典は俺の話を一通り聞いた後でそう断言した。 「智が一人の人とこんなに長いこと一緒にいるの初めてなんだよ? 蓮二さんもっと自信持っていいよ。蓮二さんのこと、あたしに教えてくれた時の智の顔ったら……あんなふうに嬉しそうに「恋人」ができたって言うのだって初めてだったからびっくりしちゃった」  俺と付き合う前の智の恋愛観には美典は呆れていたのだという…… でも俺と付き合い始めてからは「いい恋愛」ができているとわかり少し羨ましいのだと言って笑う。 「美典ちゃんってお兄ちゃん子なんだね」 「え? そんなんじゃないし。でもまあ、智が歳も近くて小さい頃もあたしの面倒見てくれてたってのもあるからね、嫌いじゃないよ。あれでも一応「お兄ちゃん」なんだしね」  そんな風に言って笑う美典は、やっぱり兄である智が大好きなんだな、と俺までなんだか嬉しくなってしまった。

ともだちにシェアしよう!